第203話:魔女っ子すぎる、ロボ戦。③

[星暦1554年10月12日。王都キャメロット。]


「なあ?ジーン。俺たち、何のためにここに来たんだっけ?」

惑星ガイアの強国、アポロニア連邦の捜査官、ケビン・スイフトはぼやいた。

「さあ?とりあえず、わたしは戦うイケメンたちの祭典が 生で拝める、という乙女の野望を絶賛果たし中ですのでね。しかも自腹ではなく会社持ちという好機に恵まれていますが、何か問題でも?」


ケビンのとばっちりで母星から遠く離れたスフィアに送り込まれた女性捜査官、ジーン・マクファイアはめんどくさそうに答えた。その視線は上司を一瞥するだになく、モニター画面に注視している。


「いやにご熱心だな。」

ケビンは半分感心したように言う。もう半分は「呆れて」いるのだ。ジーンは鼻の穴を広げて言い放つ。

「ムハー。知らないんですか?先輩。スフィアの選挙大戦コンクラーベは銀河系でも五指に入る人気の娯楽コンテンツなんですよ。美しい男たちやその躍動する筋肉。実はネットマガジンの編集をやっている友達からレビューを頼まれましれね、それがもう、けっこういい副収入なんですよ。えへへ。」

美少女戦士に血道をあげる男達もいれば、イケメン戦士に血道をあげる女子がいるのもまたしかりである。


「何がえへへだよ。公務員が副業とは感心せんな。で、おすすめのイケメンは?」

ケビンは缶ビールを喉を鳴らして飲む。

「そういう先輩こそ、公務中に飲酒とは言語道断ですけどね。⋯⋯できてますよ。」


「シャルル・ルイ・デオン・ド・ボーモン」。それが二人が追ってきた標的ターゲットの名であった。


二人がスフィアに来て3週間。無論、ルイだけを追っているわけではなく、テロ組織「短剣党シカリオン」を摘発するためのとっかかりとしてのルイである。しかし、なかなか尻尾をつかめそうもなかった。とはいえ、諦めるわけにいかない。


 彼は元法務大臣フランクリン・バネットを始め要人暗殺や無差別テロの実行犯として知られていたが、2年前の副大統領子女誘拐事件の後、忽然と姿を消していたのだ。


しかし、今度は選挙大戦に「デオンの騎士」として堂々と参加しているのである。すでに護法アストレア騎士団では団長代行ハワード・アレックス・テイラーjr天位、ジョン・ハイアット・ニールセン準天位などと共に「美形」騎士として人気を博していた。


「しかし、選挙大戦コンクラーベはかなり特殊な選挙だ。出場中の騎士や騎士団長には国会議員のような不逮捕特権もある。だからやつにはおいそれととは近づけない。⋯⋯どうする?」

ケビンの問いにジーンはめんどくさそうに答える。

「では、スフィア政府はなんのために私たちを呼んだのでしょうね?」

「さあ、あっちとこっちのデータを付き合わせて、組織の全体像を解明したい⋯⋯というのが主目的だろうな。特に、ルイ君が潜り混んでいる騎士団と短剣党シカリオンの関係を暴きたいのか⋯⋯。いずれにしても、今日の『取材』にかかっているわけだ。」


「護法騎士団」は決勝トーナメン第一戦、ヴァルキュリア女子修道騎士会を破り、 ベスト8への進出を決めた。その記者会見に突入を図ったのだ。もちろん、アポロニア連邦の取材チームの一員として入国しているため、彼らに混ざっての取材となる。


形式上はあくまでも「選挙」の体裁であるため、こうした会見は必ず行われるのが通例なのだ。

外国人記者クラブが主催する惑星外向けの記者会見で、主にフェニキア人の記者が多い。それにアマレクやガイアからの報道陣が混ざる、というところだ。


しかし、二人にとってお目当てのルイはひな壇に座らず、裏方の一人として袖の方にいたのだ。

ケビンはカメラマンとして、またジーンは記者として後方の席に座る。

(やつだ。)

ケビンは本人と直接対峙したことはないがその姿は何度も動画で見てきた。すぐに本人と確認できたのは、彼の刑事という職に従事してきた彼の積み重ねた経験に裏打ちされた「勘」によるものだ。彼は夢中でシャッターを切る。シャッター越しにルイと目が合った気がした。

(必ずお前のその細い手首に手錠ワッパをかけてやるからな)

ケビンは心の中で呟く。


司会者が偶然挙手していたジーンを指す。

「カーライル・ポストのジーン・マクファイアです。デオン・ド・ボーモン選手にお聞きします。かつて、地球のロンドン、パリ、そしてモスクワで暗躍した歴史上の人物がいました。その人物もあなたのように中性的で美しく、そして恐ろしく強かったと言います。

あなたはその人物を意識してその名を名乗っているのでしょうか?」


 ルイは腕を組んで聞いていたが、突然、質問が自分に振られたことに苦笑いをうかべた。

「私に関してはお答えできることはありません。性別、年齢、出生地、そして本名に関してもプロフィール通り『非公開』となっています。そして、私がその『デオンの騎士』の生まれ変わりだとしてもそれは一つのロマンスだ思ってください。」


ルイの説明にジーンはメガネをかけた生真面目そうな表情でさらに尋ねた

「ボーモン選手のイントネーションは、ガイア、それもアポロニアのものに似ています。ガイアの出身ではないか、という噂が我が国で話題になったこともあります。……あなたはガイアに滞在されたことはありますか?」


ルイは微笑むと

「いいえ。でもいつか訪れる機会があればいいですね。」

それだけ答えた。


(別段、慌てた様子もないな。)

ケビンは少し揺さぶりをかけ、反応を見たかったのだが、肩透かしを食らってしまったように感じた。

「あちらさんも海千山千ですからね。」

ジーンも淡々としたものだ。


二人が宿にしているホテルに向かう途中、店のショーウインドーが突然破られる。そこには刀を持ったマネキンが現れる。

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