第195話:びっくりすぎる、騎馬戦。①

[星暦1554年10月5日。南の軍都ヴィヴィアン。]


 南の軍都ヴィヴィアン。北の軍都イグレーヌと対ついを為す軍の中心部である。スフィア王国には常設軍は無く、軍事的な緊張が起こると円卓に命じて「機動軍」が複数の騎士団によって組織されるのだ。それで集結点として本部を設置する場所がこれら「軍都」なのである。それで、兵舎や補給物資を集積箇所となる巨大な倉庫が軒を連ねている。宇宙港、そして大規模な海港、巨大な地上港設備、そして巨大な生産施設もあり、非常事態以外は「工業都市」、「運輸のハブ施設」として活用されている。


二つの軍都にはそれぞれ「鎮守府」と「太宰府」の本拠地が置かれており、南の巨人族レファイムの北上、そして北の魔獣の南下を防いでいるのである。また、内側をむけばトムの故国アマレク人の国があるが、そちらに対しては「赤道方面防衛騎士団・兵衛府」の担当となっている。


ヴィヴィアンは南半球にあるため、これから夏へと向かう途上であった。


 トムが身支度を整えていると、面会者が来た、と知らされる。そしてそれは彼の実兄でニュースライターを生業とするアンテフ・C・マクベインであった。

「兄さん、どうしてこんなところにまで?」

トムが迎えると

「よお、調子良さそうだな、カーメス。お前の活躍な、扱いは小さいけどこっちのニュースにはなってるんだ。」

そして実家の様子や近況を確かめ合った。


「実はな、お前にも聞いたことがあったが、例の『インプ』の件でな、あれがスフィア側に一機渡っているんじゃ無いか?って疑惑が出てるんだ。もともとコピーの技術自体はスフィアから持ち出して来たものだからな、お互い様、っていえばどうしようも無い話なんだがな。」

「つまり、アヌビスのコピーがまだ現存している、ってこと?」

トムは凜からも殆どの事情を聞いて知っていた。ハワードとゲラシウス前総督がタッグを組んでアヌビスのコピーを作り、あまつさえ大量に生産して売り出そうとしていたことを。


いわゆる劣化版モンキーモデルがハワードの手に渡っている可能性が高いのだ。

「するとお兄ちゃんは『英雄』たちの持つ天使がそれだと推測しているのですね?」

リコの問いにトムは頷いた。

凜に相談も兼ねて報告すると凜もすでにその情報は入手していたようだった。

「ハワード卿が技スキルシステムがあれだけスムーズに導入できた、ということは、天使についてのかなり深い研究を重ねた結果だと思っていたが⋯⋯。恐らく、今回当たる『呂布ルーク』が持つ天使がそれに当たるのかどうなのか、トムが確かめられないかな?確かめられれば、今後打つ手は決まってくるからね。」


つまり、アマレクの前総督ゲラシウスは体良くハワードに利用されたに過ぎないのか、トムは心の中にモヤモヤしたものが沸き上がって来るのを感じた。

トムは一度だけ、あの「国民広場の殲滅戦」の後のタケロットを遠くから見たことがあった。自信と野心に燃え立つような瞳をしていたかつての一族期待の俊秀は、穏やかですっかり毒気の抜けた表情かおを浮かべていたのだ。


そう、彼はエリートコースから脱落してしまったのだ。彼の将来と引き換えにしてまで老人たちが力を弄ぶ、それは許されることなのだろうか。大きな目的のために多少の犠牲が出るのは仕方がないことかもしれない。その多少の犠牲になった当人は、この気持ちにどう対処すれば良いのだろうか。


「それは永遠に解決できないと思います。そのケアのために『宗教』というものが存在しているのです。創造主の元における絶対的な公平。しかし、その創造主とて、天使に階級を設けています。食物連鎖も創造主の意図であるなら、一体何が人の幸福と言えるのでしょう?」

リコの皮肉っぽい論評にトムはかぶりを振る。今はそれよりも「種」全体としての生存をかけたこの選挙を勝ち抜かねばならないのだ。金持ちや貴族は惑星を捨てれば済む話だ。では残された民はどうすれば良いのか?


「人間というものは、自分の宿題を押し付けるために子孫を作るのかもしれないな⋯⋯。いや、『賢者モード』に入るにはいささか早いかもしれない。」

トムがつぶやく。

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