第196話:びっくりすぎる、騎馬戦。②

[星暦1554年10月6日。南の軍都ヴィヴィアン。決勝トーナメント第1戦。大宰府ホーム対 聖槍騎士団。]


太宰府は陸戦が圧倒的に強い。補佐騎士団からの戦闘データも吸い上げ、日々戦闘スキルを磨き続ける騎士団なのだ。

リック、ロゼと立て続けに落とし、中堅のトムにいきなり第1ゲームの勝敗を分けるという重圧がかかる。


「中堅、東、ルーク・フォンダ人位。西、アトゥム・クレメンス人位。」


 しかも、トムと相対するのはルークであった。

「『大将』じゃ無いんですね?」

トムの言葉にルークは気を悪くした様子は無かったようだ。

「『客将』の扱いとしては悪くは無いと思うぞ。」

「前世」では転々と主君を替えて行った呂布ルークにとって、さほど驚くことではなかったようだ。


開始の礼を交わす。トムも最初に体力増強技ブースター、加速技アクセラレータの二つのスキルを使い、フォームとする。

「サイクロン・フォーム。」

トムが「救世偃月鎌」を構える。


「恒山こうざん・玄武」

ルークも同じようだ。「方天画戟」を構える。音もなくトムが宙を舞い、いきなり斬撃を浴びせる。加速されたデスサイズの斬撃は目にも止まらぬ速さでルークを襲う。

 斬撃を受け、踏みしめたルークの足がじりじりと下がる。しかし、ルークの堅い守りにトムは一旦引く。


「見事である。次は俺の番だ。崋山かざん・白虎。」

戟が激しく乱打される。今度は反対にトムが押し込まれる。

(なんて力だ。これを技スキル無しで出すだと?人間じゃねえぞ。)

「タイフーン・フォーム」

慌ててトムもパワー優先にフォームを変え、「救世偃月鎌」でその乱打を受けるも今度はルークの力で防戦一方となる。


 トムも攻撃を受けきると一旦距離を取り召喚技サモンズを使う。

「出でよ、ホルスの子ら!イムセティ、ケベフセヌエフ、 ドゥアムテフ、ハピ!」

4体のガーゴイルが現れる。それは4方向から一斉にルークに襲いかかった。


 しかし、ルークは方天画戟を巧みに操り、次々と落としてしまう。もちろん、その時間を無駄にするトムでは無い。

「セトの砂塵嵐ハブーブ!」

今度は砂嵐がルークを襲い絡め取ろうとする。トムの枷技チェインズである。


しかし、ルークはニヤリとする。

「ぬるいわ。出でよ。渾沌こんとん!」

すると巨大な犬が召喚され、反対にトムに襲いかかる。


「おいおい、どう見ても『人位』同士の試合じゃねーよ。」

大技同士の激しいぶつかり合いにリックが呆れたように言う。

「そりゃそうでしょう。町の走り屋同士のレースにF1マシンが飛び込んで来たようなものですからね。」

ゼルがそう喩えた。


(なんとかこの召喚獣をさばけば勝機が来る!)

しかし、トムの目論見とは違い、救世偃月鎌に噛み付いた渾沌は重力を吐き出す。リコが異変に気づいた。

(お兄ちゃん、これは召喚獣サモンズじゃありません。枷技チェインズです!)

(しまった。)

トムの動きが封じられる。裏をかかれたトムに対して、すでにルークは最終技の準備が出来ていた。

「かかりおったわ。絶技チェック!元始天尊ジ・オリジン・盤古バングー!」

大出力の重力波攻撃が決まり、トムのライフゲージは一気にゼロになる。


(やられたか⋯⋯)

ノーサイドの握手を交わす。トムはダグアウトに戻ると凜に

「すまない、地上戦デュエルを落とした。」

告げる。

「まあ、次、取り返そう。ところで、どうだった?ルークの装備は?」

凜はそれほど気にした様子ではなかった。トムは慌てて報告をつづける。

「間違いない。インプと同じ気、それも四枚翅のバージョンの気を感じた。やつは重力使いだと思う。地上戦デュエルではかなり強いはずだ。」

「なるほど、やはりそうか。ありがとう、トム。君の『犠牲』は無駄にはしないさ。」

凜の言葉にトムは思わず反応してしまった。

「俺の『犠牲』?それはなんか意味があるのか?」

トムとしては自分が負けた結果、第1ゲームを落としたのであり、それを責める権利が凜にはあるだろう、そう思っていたからだ。凜は少し笑った。

「ああ、あるよ。その犠牲を無駄にしない責任が僕にはあるからね。もっとも、僕が犠牲になったら、責任はその後の奴らに先送りしてやるけどね。⋯⋯確かに、きっちり結果が出ればそれに越したことはないけど、挑み続ける姿勢がもっと大切だと思うよ。それしか僕らが後の人に残せるものはないからね。」


一ゲームは落としたものの、次の空戦マニューバは聖槍が取る。そして団体戦トゥルネイはホームである太宰府の指定したシチュエーションである。

「騎馬戦⋯⋯だと?」

凜たちは思わぬ展開に愕然とする。

「無理だ、フィールドが狭すぎる。馬の脚をなんだと思っているのだ。」

メグが抗議するように言った。

しかし、そこは「重力」を操る技術が発達した時代、バトルフィールドが立体化したのだ。つまり、バトルフィールドを底にして箱型のバリアフィールドを築き、その広さを8倍にしたのである。騎馬競技の最古参であるポロのフィールドの面積がフットボール場の9倍であることから、それとそう遜色ない広さであることがうかがえる。

「なるほど⋯⋯とか感心している場合ではありません。呂布ルークは乗馬の名手です。しかも、太宰府の連中は馬も乗り馴れています。しかも、戦闘となると馬の首を考えながらしなければなりません。」

「銃しか無いね。」

無論、乗り馴れていないとはいえ、普通の騎馬競技と違うところが一つある。それは、馬が本・物・では無い、ということだ。

「今回、僕らの勝機はそこにしかない。」

凜の作戦に皆頷いた。

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