第162話:やんちゃすぎる、ガンスリンガー。❸

[星暦1554年5月4日:公都シャーウッド]


翌日の「犬追物フォックス・ハント」にアンとマーリンを除いた旅団の面々でエントリーしていたのである。

四年前はたった一人でエントリーしたため、強さは目立ったが、かなり恥ずかしかったため、凜はホッとしていた。


馬場に入ると、対戦相手はハワードのチームであった。メグを見かけるとジュニアが寄って来る。

「やあ、メグ。やはり君の姿はいつ見ても、何を着ても美しいね。この犬追物フォックス・ハントでの僕の活躍を見ればきっと惚れ直すと思うよ。」

(惚れ直すも何も、一度たりとも惚れた覚えが無いのだが。)

メグが返答に困っていると、そこに「ビリー」がしゃしゃりでて来たのだ。


「やあ、子猫ちゃんたち、僕が勝ったらデートの約束、忘れないでね?」

「断る。」

間髪を入れずメグが断りを入れる。

「あなたが生まれ育った時代はどうか知らぬが、ここは騎士の国だ。デートの申し出を受けるか否かは女性が決める。それを尊重してこそ、男子は婦人からの尊敬と信頼を得られるのだ。」


「ふーん、逃げるんだ?」

ビリーの顔が険しさを増した。これは好きになれぬな、メグはそう思う。やはり、生まれ変わっても無法者アウトロー無法者アウトローなのかもしれない。

ビリー・ザ・キッドは言い伝えでは二十人の人間を殺し、その中には原住民族ネイティブやメキシコ人の数は含まれていないのである。

「キミたちだって騎士でしょ? 人殺しが大好き、という点ではぼくと共通点が多いと思うんだけどなあ。」


「それは⋯⋯。」

メグが腹に据えかねて反論しようとした時、凜がそれを制した。

「メグ、そろそろ時間だ。」

(メグ、あれは彼の揺さぶりだ。追跡矢チェイサーは精神的な状態が命中率に影響を与える。)

凜がプライベートラインでメグに言い聞かせた。メグは身体から余分な力が抜けたようで、照れたような笑顔を見せた。


試合が始まると的をつけたドローンが投入される。

「ヒーハー!」

ライフル銃を持ったビリーが馬を躍らせた。正確な射撃で次々にポイントを挙げる。

ジュニアのチームは十人で、七人でドローンを追い込み、ジュニアとルークが射込む、というものだった。ビリーはもはや制御不能で、自分一人で「狩り」を楽しんでいた。


凜たちはリックとトムとロゼ、そしてリーナが獲物ドローンを追い込み、メグが射込むチーム、そしてひたすら凜が射込み、ジェシカが凜の護衛に着く、という2チームだった。さすがにクリスは重すぎて馬には乗れないため、リーナが自ら手綱を握る。牧畜に従事する人が多い国の出身であるため、リーナも乗馬は達者である。


出だしこそ互角だったが、前回は自分を守りつつ矢を射ていた凜は、矢の制御に集中できるため、一気にジュニアのチームとのポイントの差を広げていく。観客は大歓声を上げるが、それは活躍する凜に対してでもビリーに対してでもなく、メグに対するものだった。


ポイント表示する掲示板ビジョンを見て、ビリーは舌打ちをする。ビリーは凜に向けて発砲したのだ。ジェシカがバリアを張って防御する。

水平より上に撃つのはルール違反のため、ジェシカはビリーを睨みつける。しかし、ビリーはウインクすると、

「ごめんね。誤射だよ誤射。ちょっと手が滑っただけさ。」

そう悪びれずに度々「誤射」を続けた。

「『一発だけなら誤射かもしれない』というフェイクニュースで有名な新聞が地球にもありましたが、これは明らかに攻撃です。」

ゼルも怒り出し、ジェシカの表情にも徐々に怒りの色が射す。


(ジェシカさん、気にしないで。これくらいは予測の範囲内だから。)

さすがに、凜も全く影響を受けない、というわけではなかった。それほどに彼の射撃は正確だったのである。


(ジェシカさんに護衛を頼んでおいて正解でしたね。)

ゼルは頼もしそうな目でジェシカを見つめる。ジェシカもこともなげに凜を守っているが、「護衛」担当の秘書だったため、そのスキルは一流なのだ。


 試合は1ポイントの差でハワードのチームが勝利した。しかし、ビリーの反則による減点で優勝は凜のチームのものとなったのだ。

「なぜだ?」

ビリーもジュニアも激昂する。

「父上! いくらあちらにメグ姫がいるからと言って、この依怙贔屓はあんまりです。王太子殿下に申し上げてください。」

ジュニアの抗議にも流石の親バカのハワードも首を振る。

「良い。ビリーのやつにルールに従わなければ勝利は剥奪される、ということを身をもって学んでもらったのだ。『本番』で同じ轍を踏まぬよう、お前からもいい聞かせよ。」


表彰の後、ビリーがつかつかと近づいて来る。

「貴様、覚えておけ! 俺は手加減をしてやったんだからな。」

まるで噛みつきそうなビリーの表情に凜は澄まして左手を差し出した。

ビリーは思わず握手をする。凜はニコッと笑ってから言った。

「知っているよ。君の利き腕がこっちだということもね。」

ビリーが右手で銃を扱っていたことが「手加減」に当たること言い当てられ、彼は少し驚いた表情を見せた。

「なぜ、それを知っている?」

「さあね。次は本気で来るのでしょ?」

凜はそういうと立ち去った。ビリー・ザ・キッドの「左利き」説も真偽は定かではないのだ。やはり、「造られた」英雄なのかもしれない。凜は結論がそちらに傾いていくのを感じていた。




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