第159話:現れすぎる、異邦人たち。②
上位7名の表彰が終わる。ジュニアは的を一枚だけ当てることができたようである。騎射は日頃訓練を積まねばそう上達する者でもなく、スフィアから招待された射手たちは大抵、一枚当てるのに精一杯だったのである。
「なー、凜。またウチと踊ってや。」
表彰後のパーティでロゼが凜にダンスを一曲おねだりする。
「いいよ、喜んで。」
ロゼは運動神経に恵まれており、ダンスも上達していた。凜はロゼに尋ねた。
「しかし、ロゼも変わったね。あんなにパーティーとか嫌ってたのに。」
「別にええやん。ウチも気いすんださかいな。今はこうして凜と踊ったり、
一曲終わると、ロゼは大きく伸びをしてから凜を誘った。
「運動したらお腹へったわ。なんかつまみに行こ?」
ロゼは凜の手を引いて軽食のコーナーへと引いていく。そこには色とりどりのオードブルが所狭しと並べられていのだ。ロゼはトレーを手にすると盛り付けを始める。
「うわあ、天国やないか。これやこれ。食べる、という楽しみを知っとったら、最初っからサボらんかったんにな。」
「お嬢さん。私と一曲、ワルツをいかがですか?」
そこに凜よりやや背の低い男が現れた。小柄ながらも引き締まった肉体をしており、
「凜、どうしたらええのん? ウチ、少しお腹空いてんねんけど。」
胡散臭そうな満面の笑みを浮かべた男にロゼはやや警戒の色を顔に浮かべる。
「じゃあ一曲待っていただいたら?」
凜はそう提案し、ロゼに視線を向けたその時、男の脚がすっと上がると凜の顔にめがけて蹴りを入れる。それはそれは鮮やかなものであった。その蹴りは凜の頬すれすれで止められた。それを目にした人々から声が漏れる。夫人の中には小さく悲鳴をあげた者もいたほどだ。
ロゼは驚いてオードブル満載のプレートを落としたが、凜がサッとそれを受け止めた。
「危ないよ、ロゼ。」
何事もなかったようにそれをロゼに手渡す。
「驚いたかい?」
男はニヤリとした。
「驚いて身動きが取れなかった。でも、それがキミの安全を守った、ということさ。」
得意げな男に凜も苦笑する。
「そうだね、びっくりしたのはキミの足が少し臭ったことかな。それに、軸足の位置とつま先の角度、それだけ見ればだいたいの予想はつくよ。それにキミが東洋人でよかった。もう少し脚が長ければ、文句なく当たっていただろうね。」
凜にしてはかなり失敬な物言いであったが、初対面の、しかもパーティーの主賓に対する悪戯にしては度を越していたのは間違いない。
「ぼくは棗凜太朗、聖槍騎士団所属の騎士だ。あなたは?」
「私はブルース。ブルース・リー、求道者だ。今日は友人の表彰式に付いてきたのさ。」
(マジか⋯⋯。前田慶次、柳生十兵衛、呂布と時代も国もバラバラだな。)
別の意味で凜は気が遠くなりそうだった。
そこに、礼服をまとった男たちが近づいて来る。その腕に騎士団の所属を示す徽章はつけられていなかった。
「ブルース、余計なことをして手を焼かせないでくれ。彼は
男たちは向き直ると凜に頭を下げる。
「申し訳ありません、閣下。この者は田舎者ゆえ、礼をわきまえておりません。平にご容赦を。」
「私もこの
凜も気を悪くしていないことを告げると、彼らはホッとしたように「ブルース」を連れて去って行った。
「
ゼルの分析に凜も頷く。
「だろうね。僕が士師であることの意味を本当に理解しているのは彼らだけだからね。」
黙示録騎士団は「諜報機関」の一面を持っている。そのために、凜に関する詳細なデータを持ち合わせているのだ。それに凜が士師であることは円卓によって極秘にされているのだ。凜が登場することによって国民の中に不安が生じ、暴動がおきないように、というのが彼らの言い分である。
「ウチ、さっきの人と踊らんでもええんやね。」
ロゼがポツリと言ったので、凜は笑いを噴き出しそうになった。
「それにしても凜、この『
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