第142話:学園すぎる、怪談話。①

[星歴1543年9月18日。聖都アヴァロン。聖槍騎士団本部。]  


 聖槍騎士団ジ・オーダー・オブ・ロンゴミアント正統十二騎士団アポストルの一角を占める由緒正しい騎士団である。

その設立は古く、スフィア王国の再独立を果たした英雄、不知火尊しらぬいたける=パーシヴァルによって、星暦1010年、アヴァロン医療騎士団として開基された。

それ以後、地球人種テラノイドのための医療の発展に寄与してきた。ここから百万人を超える医療騎士(医師)が巣立ってきたのだ。


現在は医師の養成の多くは麾下の地方騎士団に任せ、高高度な医療技術を研究する専門機関、そして戦争時や災害時に派遣する騎士の養成機関となっているのだ。現在では積極的に惑星内外からの留学生を受け入れている。


 第十三旅団の面々も午前中は行動がバラバラなのである。


 凜とマーリンは主にフォルネウス格納庫上の執務室での仕事になる。

「凜、団長がお呼びです。」

ゼルが凜を呼んだ。


透は凜が部屋に入ると席を勧め、話を始めた。

「凜、円卓から連絡が来てな。最近、海賊化する連中が増加傾向にあってな、飛空艇の管理には気をつけるように、とのことだ。これはお前さんだけでなく、飛空艇が配備されている各旅団長に言ってある。」

 ここ最近、飛空艇を盗み出して惑星からの離脱を試みるものが多いのだ。フェニキアとは飛空艇による集団亡命を認めない、という条約を交わしていたので、現在はフェニキアではなく、惑星周辺の小衛星にアジトを作って身をひそめる海賊団が増えているのだ。


「まあ、うちの飛空艇ふねを盗れる人間はそうはいないでしょうけどね。でも、これはやはり、『メテオ・インパクト』の情報のせいでしょうか?」

凜の問いに透は頷いた。

「天位以上の全ての騎士には、ジャンルを問わず公開している情報だからな。箝口令を敷いているわけで無しに、広まるのは時間の問題ではあるがな。

問題は、その集団が暴徒化した時と、その隙に生じる反社会的勢力の蠢動、というわけだ。」

凜もうなずく。

「その対処も選挙大戦コンクラーベの争点の一つにはなるでしょう。いずれにしても、最大の争点は次の惑星防御砲エクスカリバーの様式でしょうね。私の転移式になるのか、ハワード卿が推進するブラックホール砲になるのか……。ところで、ハワード卿が提唱する『ブラックホールレーザー』とはどのようなものなのでしょうか?」


透は一度お茶を口にしてから説明した。

「まあ、簡単に言えば、ブラックホールをエネルギー収集器に使う、ということだな。縮退炉ブラックホールエンジンと定義は一緒さ。ほら、小さいブラックホールはホーキング放射による蒸発が早いだろう。つまりエネルギーを放出するわけだ。そこに質量を投入しつづければ延々とエネルギーを放出し続けることができる。これを安定活用したのが縮退炉だな。


さらに、それを続けるとブラックホールの周りに降着円盤が形成される。そいつが出すエネルギーが膨大でな、そのエネルギーを収束してレーザーとして照射する、というわけだ。」


ゼルが口を挟む。

「つまりブラックホールでエネルギーを集め、降着円盤で増幅してレーザーを発射、ということですね。しかし、それには一つ、問題があります。ブラックホールが放出するエネルギーは意外に小さい、ということです。つまり、フェニキアが売りつけるのは対艦兵器に毛が生えた程度でしかないのではありませんか?」


ゼルの指摘に透もニヤリとする。

「なかなか鋭いね。ただ、この見誤りには、きみたち眷属ハイエンダーにも責任の一端はあるんだよ。『ブレイク・ショット』で動き出したあの巨大小惑星を『破壊者デストロイヤー』と名付けたことさ。」


「それが何か問題でも?『ブッチャー』の方がよろしかったでしょうか?」

ゼルが首をかしげる。

「ゼル、昭和のプロレスネタはやめなさい。」

凜がたしなめると透は苦笑する。


「まあ聞けよ。円卓はこう考えた。『駆逐艦デストロイヤー』なら、『巡洋艦クルーザー』よりは小さい、とね。」

ゼルは再び首をかしげる。

戦艦バトル・シップの話ではありません。」

ゼルのボケ殺しに凜も苦笑する。

「ゼル、透さんはジョークを言ったんだよ。だから『対艦兵器』で十分だ、と考えたのだろう、って話。」


受けなかったことに透はやや落ち込んだようである。

「まあ、いずれにしても円卓は強力な兵器を手に入れることになる。なにしろ砲艦ガンナーとしては銀河系屈指の威力だからね。もしかすると、きみたち眷属ハイエンダーに再び自治権の譲渡を要求するかもしれないね、そう、力づくで。」


ゼルは不敵そうな笑みを浮かべた。

「愚かなことです。武力だけで覇を称えるものに覇王たることはできません。『剣を取るものは剣によって滅びる』とあるではありませんか。『コード;エデン』の無意味 な繰り返しになるだけです。」


 トムとリック、そしてロゼは午前中は「救命医療科」の訓練を選択している。これはいわゆる「救急救命士」や「衛生兵」にあたる。「聖槍騎士団」のお家芸であるゲノムを読み、ナノマシンによって傷口をふさぐなどの応急処置をとる。現場に直行するためには救急車ではなく、主に飛行機能のついた大天使アークエンジェルを使って急行しするのである。そのための飛行訓練も受けるのだ。また、戦場を想定した軍事教練も受ける。


 一方、メグとリーナは医療科である。医療科と救命医療科の違いは後者が「応急処置」に特化しているのに対して、前者はより長期的、かつ根本的な「治療」を目指しているからである。

 メグはナノマシン治療をヌーゼリアル人に適応させる方法を研究している。リーナは超記憶症ハイパーサイメシアという能力を持っており、医学に関する知識はほぼ頭の中に入ってしまっている。その使い方を学びに来ているのだ。ガイアにはまだこの技術が導入されていないため、リーナに対する期待の大きさがうかがえる。


「そうなんだあ。この騎士団はそんなに古いんだねえ。確かに、古い建物も多いよねえ。アポロニアは歴史が浅い国だから、200年前くらいだったら余裕で遺跡に認定されちゃうよ。」

リーナは騎士団に関するゼルの説明に感嘆したように言う。


「そんなに旧いんやったら、きっと敷地のどこかにお宝でも埋まってんとちゃう?」

ロゼが茶々を入れた。

「うーん。だとしたら、どこかに宝の地図でもあるのかな?」

リックが食いつく。


「パーシヴァル卿は高潔かつ高邁な理想を体現されたお方だ。そんなお方がまるで犬が庭におやつを埋めるかのように私財を肥やして隠したりするようなことはするまい。」

メグが即座に否定する。尊はアーニャ・エンデヴェールの夫でもあるのだ。アーニャはメグにとっては憧れの対象である


「そうですね。いわゆるお宝はありません。」

ゼルがあっさり否定したので座の盛り上がりに一気に水を差された。

「だって、当時の地球人種テラノイドたちは裸同然で独立しましたからね。そんな物資があれば、使ってなんぼ、という場合じゃないですか?」

マーリンが説明を加えた。ため息がみなの口から漏れる。


「⋯⋯でも、『七不思議』ならありますよ。」

ゼルが意味ありげな笑みを浮かべた。

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