第131話:激闘すぎる、本戦。①
[星歴1552年1月7日。惑星スフィア。フェニキア植民都市エウロペⅠ]
グランプリ・ファイナルの前夜祭が盛大に催された。真夏のエウロペⅠに各地から観光客が訪れる。
出場者のパレードが行われ、会場も町の中心にある地上港前の広場が開放され、そこで行われる。もはや、レーサー同士が絡むような場面も少なく、ファンやオーナーたちへの対応だけで精一杯である。
「ついに、ここまで来たんやなあ。」
ロゼが感慨深そうに言う。
「いや、ここで勝たないと意味がないんだ。」
凜は自分に言い聞かせるように呟いた。
「
司会者がおそるおそる尋ねる。さすがに
「ええ、敢えて言うなら、『
ピーターの発言に観衆がどよめいた。司会者はピーターのリップサービスととらえたのか恐縮してさらに尋ねる。
「えーと、彼は、その無名の
「そうだね。しかし、誰でも最初はルーキーなのだよ。かく言う私も数年前まではほとんど無名だったからね。彼はわたしがぶち当たる『壁』になるとはいわないが、つまづきの『石』とならないよう用心しているよ。」
チャンピオンの見事な答えに司会者はただ感嘆していた。
「チャンピオンのこと、どう思います?」
マーリンが凜に尋ねた。
「
凜の答えにゼルが説明を加える。
「あえて凜の名を出すことによって、ほかの出場者たちに
[星歴1552年1月14日。惑星スフィア。フェニキア植民都市エウロペⅠ]
アポロニア・グランプリ。ついに
コースレイアウトは予想に違わず「
「鈴鹿」はテクニカルなコースでスピードも要求されるため、ドライバーの腕が最も試されるコースの一つである。特徴的なのはコースが途中で立体交差するため、左回りと右回りがスイッチされるところだろう。
予選結果によって
ポールポジションはテスト走行のラップが最速であった「
「緊張する⋯⋯。なんかお腹がゴロゴロすんねん。」
緊張を隠せないロゼが不調を凜に訴える。凜は無言でロゼの頭を撫でた。毛繕いをするようにゆっくりと撫でる。今度はロゼの喉がグルグルと言い出した。
「なんか気持ちええなあ。⋯⋯」
うっとりとするロゼにジェシカは
「お嬢様のかかる仮病は大抵は腹痛ですから。」
そう一刀両断する。
「仮病やないかもしれんやん。」
ロゼが抗議するとジェシカは澄ました顔で
「ツナサンドや。」
好物が出てきて途端にロゼの顔がパッと明るくなる。身を乗り出さんばかりであった。
「なるほど、仮病の時はこうなる、というわけですね。」
マーリンが苦笑した。
「あかん。ジェシカにまんまと騙されてもうた。」
ロゼの抗議にみな笑い、コクピットには穏やかな空気が流れ、緊張感を
ブラックホールエンジンが稼働し、その振動がコクピットにも伝わってくる。空気がないため、その音は観客までは伝わらないが、空気があったと仮定した音が映像には付けられる。
(全てはこの日のために。)
凜は気を引き締める。これは、ジョーダンの地位がかかっているわけだが、同時にそれは惑星スフィアの命運をかけたレースでもある。
惑星防御砲完成のための最後のピースとなる技術、空間捻転および圧着技術。これによって防御砲の命中精度と転送陣の展開力が圧倒的に上がるものだ。そして、惑星砲筐体に使用する
シグナルがオールグリーンになり、一気に
ヘアピンカーブが迫り、サミジーナがシフトダウンする。コースはチューブ状になっているのでそれほどスピードを落とさずとも曲がれないことはないが、サミジーナはすぐ直前にいる
「完璧なラインどりだ。さすがは俺のコピー。」
「
最初のバトルは2位の「
ショーンもピーター・パーフェクトも拳法使いである。騎士団が発達したスフィアにおいて、徒手空拳に見える拳法は軽く見られているが、決して弱い訳ではない。重力子バリアを武器として使うため、攻守にバランスが良く強いのである。
「ショーン・ビジョーソルト、参る。」
ショーンにもファイナリストの意地がある。ピーターには何度か挑んだことがあるが、いまだ勝った事はない。しかし、戦わない訳にはいかないのである。しかし、パワーは互角でも技のキレはピーターが上回っていた。溜まってしまったダメージが上限に達し、ショーンの敗北が確定する。ピーターには一周のアドバンテージが、ショーンには一周のペナルティーが課される。
「ロゼ、ジェシカさん、行きましょう!」
凜がジェシカそしてロゼと共に、「
ロック・スラッグはゴーレム使いである。ピットが設置された岩石衛星から泥人形ならぬ岩人形が現われた。
「僕がゴーレムを引きつけるから、二人は術師の方を頼む。」
「了解!」
対戦はしたことがなかったが、映像資料があった。ゼルが説明する。
「凜、ゴーレムは石で出来た機械、だと思ってください。生物ではありません。ゴーレム内部にある
ゴーレムが腕を振り上げる。凜は「
振り下ろされた瞬間、凜の抜いた天衣無縫が紫電一閃、ゴーレムの拳を切り裂いた。
「なるほど、居合の応用ですか。質量は相手が完全に上回っていますが、あの薄い刃に全ての力が籠もれば、間違いなく切り裂けますねえ。」
マーリンはモニターで見ながら呟いた。
しかし、ゴーレムの腕はすぐに回復した。《ルビを入力…》
「当たり前です。核を破壊しなければゴーレムは止まりません。制限時間の5分では、あの核まで届くのは困難でしょうね。ジェシカさんが術師を倒してくれるのが早いかと。」
しかし、ジェシカもロゼも苦戦していた。というのも術師のロックを守るグラベルはおびただしい石を自分たちの周囲にまるで結界でもはるかのようにびっしりと引き寄せていたのだ。
「まるで甲羅にひきこもる亀だね。」
凜が苦笑する。
「ジェシカさん。ぜひ、『亀頭』を剥き出しにしてやりましょう!」
ジェシカはゼルの下ネタをスルーした。何度か攻撃を試みるが、装甲は厚く、たとえそれをはいでもすぐに再生してしまう。時間だけがジリジリと過ぎて行く。
ゼルが凜に囁く。
「さすがに手ごわいですね。ただ、まだ試していない方法があります。」
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