第103話:思いがけなさすぎる、再会。①
[星暦1551年2月7日。惑星スフィア。フェニキア領エウロペ。宇宙港。予選第一戦。]
レースも後半になってくると、優勝の可能性は数台に絞られてくる。
アナウンサーががなる。
「しかし、9年ぶりのレース復帰となった、
バックモニターに「
「ハチロクだと? とっくのとっくに昔の船じゃねーか。そんなもん、コーナー3つでバックモニターから消してやるぜ!」
しかし、そのコーナーで追いつかれ、しかもバックストレートでかわされる。
「なにーー!?」
さらに周回を重ね、ついにバックストレートで現在トップの機体を捉えた。
「来ましたね。私の出番です。」
マーリンが指の関節をならす。ここはキャプテンの出番なのだ。
「『ゼビウ●』そして『グラディウ●』で鍛えた私のテク、ご覧ください。」
「それはスフィアの訓練機関ですか?」
マーリンのギャグを真に受けたジェシカが尋ねる。
「ええ、縦スクロールでも横スクロールでも、OKなのです!」
マーリンがそう言って主砲を打つと量子砲にのった重力ペイント弾が次々に着弾する。サミジーナはオーバーテイクをかけると一気に抜き去った。
「おっと、ここでついに首位が入れ替わった。抜かれたのは『
そして、遂にトップに躍り出たところで2度目のピットインだ。
すると、
ワームホールの空間では機体が亜光速までスピードが上がっているため、ゆっくりにしか見えない。ブレーキングでサミジーナがエネルギー波を交わす。若干スピードの落ちた機体の前に、先日見たばかりの船が現れる。
「
ゼルの言葉にマーリンが頷いた。自在天は戦闘機に手足が生えたような形で銃を構えていた。
「ガウォー●かよ。」
凜が突っ込む。「
「凜、こっちは格闘戦はできない機体だ。ピットには近寄らせないでくれ。」
サミジーナが指示する。
凜とジェシカが応戦し、ロゼがピットの警備にあたる。足の生えた戦闘機はさらに変形すると人型に姿を変えた。
「がちで『バト◻︎イド』か。」
凜が呆れたように言う。
「凜、伏せ字になっていませんよ。」
マーリンが注意する。
「凜、あれを見てください。ほら、コクピットが『チ●コ』みたいになってます。『チ●コクピット』と呼んじゃいましょう! リアルに
ゼルが嬉しそうに言った。
「女の子がそんな言葉を連呼しちゃダメ。」
凜がたしなめる。
「よし、坊やをぶっ殺す。」
パットは凜にエネルギー銃を撃つ。凜の背中に4枚の光翼が現れた。
「去年、リーナの奪還戦で
凜は
「くそ、バリア展開済みか……。」
そんな攻撃は百も承知、と言ったところか。パットは手に持った銃で凜を叩こうとする。しかし、凜は
「なんて馬鹿力だ。⋯⋯そうか、スフィア
凜は受け切っただけでなく斬撃を銃のエネルギーパックに突き立てた。
エネルギーパックは暴発し、「
凜は光翼で爆風を防ぐ。
「装甲の薄い関節や指を狙ってくるか。『人型』の弱点をとことん突いてくるとは、若いくせに嫌らしいやつめ。」
パットは即撤退する。これ以上は不利だからだ。判定で凜が勝ち、凜に60秒のアドバンテージ、パットに30秒のペナルティーが課せられる。
「なんとかして取り返す。」
パットは再スタートから猛然と飛ばす。しかし、なかなか追いつかない。
「くそ、なぜだ。なぜなんだ?」
パットは焦っていた。直線は自在天の方が速いため、じきに追いつくだろう、そう思っていたが、ジリジリと魁に引き離されているのだ。
とりわけ、
「バカな。どんな魔法を使っているんだ。くそ、今日に限ってこいつが遅く感じるぜ。セカンダリータービン止まってんじゃねえのか?」
ただ、外から見る以上に
「うわー、曲がるのかよ!?」
「ぎゃー、ぶつかる!」
未知のスピードでカーブを攻めるたびに絶叫がコクピット内に木霊する。
「曲がれええ、オレのハチロク!」
サミジーナも必死の形相だ。
そして、ついに
「やった!」
「勝った」
ジョーダンもついてきた旅団の面々も大喜びであった。
宇宙港に入ると、表彰台が待っていた。
「ありがとう。」
ジョーダンの目には涙が浮かんでいる。
「とりあえず、
そして表彰台にあがった凜たちに、主催者から優勝トロフィーと、
「よっしゃあ! シャンパンファイトだ!……一度、やってみたかったんだよね。」
凜がレースクイーンから渡されたシャンパンのボトルを高くかかげた。しかし、長身のマーリンに、ヒョイと瓶を取り上げられてしまう。呆然と見上げた凜にマーリンはにっこりと笑って言った。
「凜、あなたの身体はまだ未成年ですから、遠慮してくださいね。」
「え〜!? 一度やって見たかったのに?」
凜の抗議は却下される。
「私が代わりにやっておきますから。」
かくして、凜は勝利の美酒にあずかることなく表彰式から追い出されてしまった。
「凜、やったね!」
やはり未成年という理由で一緒に追い出されたロゼと共に旅団の連中に迎えられる。
「俺たちもサイダーでやるか?」
リックがニヤニヤしながら尋ねた。
「却下だ。髪がベタベタになっては敵わぬ。」
メグが苦情を入れる。
「そうです。やめておいた方が身のためです。大昔のヤンキーはコーラで髪を脱色していたのです。⋯⋯あ、メグは最初からブロンドでしたね。」
ゼルが中途半端な制止をかけたが、
「じゃあ、タンサンでやろうぜ!」
と落ち着いてしまった。
シャンパンファイトならぬタンサンファイトをピットでやらかし、ピット長にこってりと絞られることになってしまったのだ。
「だからやめとけ、っていったのです。きーーーーしししししししし。」
ゼルが笑った。
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