第42話 高校3年生 第1回目の同窓会

「お前! それって免許証か?」

「まじで?」


 今、目の前で啓介が俺の運転免許証を見て驚愕きょうがくしている。


 ふふふ。実は大学受験が終わってすぐに、直接、運転免許センターに行き、一発試験で仮免を取得。そして、卒業式の3日後に本免に挑戦して合格したのだ。


 う~ん。タイムリープしてから年月が経っていたので心配はしていたが、ちょっと練習したら、すぐに感覚を取り戻すことができた。

 とりあえず普通自動車のマニュアル免許だが、今度の夏休みには自動二輪に挑戦しよう。


 ちなみに現在、春香は大学入学前に仮免まで取りたいということで、教習所に通っている。

 本免は夏休みに挑戦するつもりだが、まあオートマ免許だし大丈夫だろう。


 今日は、第一回のクラスの同窓会として地元商店街にあるイタリア料理のお店に来ている。

 ビュッフェスタイルで、最初に幹事のクラス委員から挨拶、つづいて先生の挨拶と乾杯をした。

 同級生のみんなとこうして会えるのも、今日が終われば当分先になるだろう。そのため、今日は春香と別々に行動している。……とはいってもクラスの同窓会だから、同じ部屋の中なんだけどね。



 突然、女子のグループからキャーという黄色い声が上がった。


 男子のグループから「何だ?」という声が聞こえる。俺は素知らぬ風を装って、啓介から免許証を返してもらった。

「どうした?」

と、先生と何人かの男子が女子の方へ向かった。

 騒ぎが気にならないかって? だってさ。おそらくあの騒ぎは……。


「おいおい! 夏樹。なにあの指輪!」

と見に行った男子が走って戻ってきた。

 俺は立ち上がって、啓介とアイコンタクトをして、

「元々はおばあちゃんのさ」

と言うと、

「はあぁ。婚約指輪ってやつか。……お前らすごいな」

とため息をつかれた。啓介がめざとく俺の手首を見て、

「夏樹。その時計はもしかしてお返し?」

「ああ。春香の父さんのだ」

「……なるほどね」


 まあ、啓介と優子はあの結婚式に出てもらったから事情は知っている。

 だが他のクラスメイトには、婚約とか結婚とかは内緒にしていたから、驚きだろうね。


「まあまあ。ちょっと夏樹。お話ししようぜ」

と別の男子が俺の肩を押さえてイスに座った。

 苦笑いしながら座ると、俺の耳元で、

「で、結局のところ、いつからエッチしてんの?」

 一緒に聞いていた啓介が、笑いながら見ている。が、その目は笑っていない。

 まったく男子って奴は、こういう話題ばっかりだよな。

 俺は苦笑しつつ、

「内緒?」

と言うと、啓介がやれやれとつぶやいた。っていうか、お前らだってそうだろ? 春香から聞いたよ。


「ちぃ。うらやましい奴め。で春香ちゃんは何カップなんだ?」

「内緒」

「おいおい。内緒ばっかりかよ。カップくらいいいじゃんか」

 う~ん。でもなあ、他の奴に教えるのは何か嫌だなぁ。


 そう思っていたら、啓介が、

「Fだよ。F。こないだ優子から「ちょっと待ったぁ」」

 あわてて啓介を止めたが、この野郎、何をばらすんだ!

 啓介が、

「夏樹。ここには男しかいないから大丈夫だって。……絶対内緒だぜ?」

とウインクした。やめてくれ。

「いいなぁ。Fカップ」

とつぶやく男子を見ながら、内心で「まあね」とつぶやいた。

 実際、体操着の時に結構チラ見されてたもんなぁ。

 

 ニヤニヤしている啓介を見て、お返しとばかりに、

「優子だってDくらいあるんだろ?」

と言ってやったら、あわてて、

「う、うん。まあね」

と白状した。

 うん。知ってて言った。前に春香から聞いたから。


 それを聞いた男子が、

「俺の彼女はBなんだよなぁ。……夏樹。どうしたら大きくなるかな?」

「え? 俺にきくなよ」

と言うと、啓介が横から、

「バストアップ体操を続けるのが一番だろうなぁ。優子も春香からそう教わったって言ってたぜ」

「なるほど。バストアップ体操ね。今度、言ってみるかな」

「っていうか。好きなら、そこまで気にすることでもないだろ?」と言うと、

「夏樹はそう言うけどさ。好きな子がグラマーだとやっぱうれしいじゃん」

と返された。まあ、それはそうだけどね。


 そこへ優子がやってきて、

「あらぁ。男3人が何の話をしているのかなぁ?」

と言った。

 啓介のあわてっぷりがひどい。

「ゆ、優子。べ、べちゅになんでもないさ」

「ぷっ。そんなにんでて何でもないってことはないでしょ? ぷぷぷ」

 その後ろから春香が、

「優子ったら急に……。あっ。夏樹」

とやってきた。微笑んで手を振ってやると、うれしそうに隣にやってくる。


 それを見た男子が片手を上げて、

「じゃ、夏樹。啓介。そういうことで」

と言って離れていく。何だよ。そういうことって?


 春香が優子に、

「急にどうしたの?」

と言うと、優子が、

「ふふふ。なにやら男子3人が不穏な話をしていたみたいなのよね」

 す、するどい! 結構離れていたのに、君はスパイなのか?

 俺は驚きを表さないように気をつけながら、哀れみを含んだ目で啓介を見た。

 ……啓介。お前大変だな。


 春香が首を斜めにかしげて、

「で、夏樹。何を話していたの?」

と尋ねてきた。うんまあ、そのね……。

 言いよどむ俺を見て、優子が笑いをこらえながら、

「あのね。春香。どうやら女子のおっぱいの話をしていたみたいよ」

とバラした。おいおい。おっぱい言うなよ。春香がじとっと俺を見上げてるじゃないか。


「ふうん。夏樹は私以外の女子の胸が気になるってわけ?」

 俺はあわてて春香の耳元で、

「そんな訳ないって。ほら、春香がクラスで一番大きいだろ? それでみんなうらやましがってさ」

「……ねえ。夏樹。なんで私がクラスで一番大きいって知ってるのかな」

「い、いや。それは……」

「後でじっくり聞かせてよね」

 春香さん。怖いです。


 言葉に詰まった俺を見て、春香が、クスッと笑って、俺の唇に人差し指を当てた。

「冗談だよ。冗談」


 そして、俺の耳元で、

「だって夏樹。私のしかチラ見しないもんね」

 確かに。春香の胸ばっかりチラ見してました。っていうか、俺のそばにいっつもいるんだから、そうなるよね。……ガードされてるとも言うが。

 ニヒヒと笑う春香に、女子たちが「夫婦だ」とか騒ぎ出した。


 先生がやってきて苦笑いしながら、

「まあ、俺は事情を聞いているからあれだが、みんなは知らないからね」

と俺の前に座った。先生は、

「俺としてはお前らが高校生の間に妊娠しないかどうか心配でなぁ。他の奴らへの影響も気になっていたんだよ」

 おいおい! 何を心配してたんですか!


 俺の横で春香が赤くなっていく。先生はそれに気づかずに、

「二人とも大学進学だったな。……俺の考えだが、まだまだ大学生なんてひよっこみたいなもんだ。社会の厳しさを知るまでは、その、子供はやめておいた方がいいぞ」

 先生。わかっていますよ。……しかし、先生のアドバイスはしばらく続いた。

 ――――――。


 ともあれ、初の同窓会は賑やかに過ぎていった。

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