第7話『伝説の一匹狼』



「(……やれやれ、面倒なヤツと出くわしちまったもんだぜ。)」


デン助は頭を抱えながらも、悲しそうに泣き続けるゴン太がだんだんあわれに思えてきた。


「ようよう、ゴンの字とやらよ。もう泣くんじゃねえよ」


 ゴン太がゆっくりとデン助の方を向く。デン助は優しく、少しおどけた口調で話し出した。


「こいつは、ちょいと前の話だがな。〝一匹狼〟の話を聞いたことがあんだよ。めえさん、群れからはぐれちまったんだろう?」


 ゴン太が神妙な顔で頷く。まだ少しヒクつきながらも、涙は止まっていた。


「もし、戻れねえってえならよ、いっそ、〝一匹狼〟ってヤツになっちまえばいいじゃねえか。〝一匹狼〟はオオカミたちの憧れだって聞いたぜ?」


 我ながらいい話を思いついたものだと、デン助が得意げに微笑んでみせる。黙って聞いていたゴン太がゆっくりと首を振る。


「〝一匹狼〟の話はボクも知っています。でも、あれはただの伝説なんです。オオカミはみんな群れで生活しているんです。ひとりぼっちで平気で暮らせるオオカミなんてどこにもいません」

「そうなのかい?」


 ゴン太がうつむく。


「……もし、本当にいたとしても、それはボクなんかとは全然違う、オオカミの〝王様〟です。ボクは……臆病で、泣き虫で、間抜けで、みんなから笑われてばかりの……最低で最悪の駄目オオカミなんです!」

「なにもそこまで言わなくたって――」


デン助が慰めようとするとゴン太は激しく首を振り、きっぱりと言った。


「本当のことだもん!」


 切実な口調に黙るデン助。

 ゴン太は地面をじっと見つめていた。


「でも……伝説の〝一匹狼〟は、ひとりだって全然さみしくなくて、どこに行ってもヘッチャラで、喧嘩だって、自分より大きい相手でも堂々と受けて立って、最後には絶対勝っちゃうんです。とってもとっても、強いオオカミなんです」

「……なるほどなあ。聞けば聞くほど、めえさんとはほど遠い存在というわけか」


 知ったかぶって余計な話をするんじゃなかった、とデン助がポリポリと鼻の頭をかいていると、ゴン太の目にまた大粒の涙がたまり出した。

「しまった!」と思ったときにはもう遅く、ゴン太はさっきよりも激しく泣き出してしまった。


「ウオォ~ン! ウオォ~ン!」


 デン助がお手上げ状態となり、いよいよ身をもてあましかけたときだった。

ズドォーーンッ!

森のどこかで雷が落ちたような大きな音がした。

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