第16話 本気で

 今までの如月の冗談半分の告白とは違った。顔が真っ赤だ。声が震えている。目が真っ直ぐ俺を見ている。


「大学に入って、寅くんに初めて会った時から本気で好き。寅くんの顔が本気で好き。寅くんの声が本気で好き。寅くんの優しい所が本気で好き。寅くんの…」

「分かった、分かったから‼ 恥ずかしいからやめろ」

「私は冗談抜きで言ったから。寅くんの本気、聞かせて?」


 彼女の顔も赤いけど、俺の顔も多分真っ赤だ。顔が熱い。俺は一回、二回と深呼吸した。如月が本気で言ったんだ。俺も本気で答えないと。まさか初めて会った時から好きだったなんて……ん? 大学に入って?


「おかしくないか?」

「なにが?」

「俺たちが初めて会ったの、大学受験の時だろ?」


 そもそも如月と出会ったきっかけは忘れもしない。試験中に如月が鉛筆全部へし折って、俺がカンニング覚悟で予備の鉛筆をやったからだ。それを如月が忘れるはずがない。 じゃあ目の前にいるコイツは誰だ?


「やっぱりわっちは所詮、偽物だったってことでありんすね」

「その口調……やっぱり霧雲か」

「こうして話すのは久しぶりでありんすね、泰寅様」


 如月から煙が立ち上ると、見覚えのある花魁姿の女性に変わった。

「でもいつから入れ替わったんだ?」

「泰寅様が鬼の娘と一瞬はぐれた時でありんす。短い時間ではありんしたが、いい夢を見させてもらいんした」


 ということは、俺は霧雲と手を繋いだり、屋台を回ったりしたってことか。今考えれば、別に手を繋ぐ必要は無かったな。そこは若気の至りってことで。


「でも、どうしてこんな如月になりすましたりなんか」

「わっち、どうしても泰寅様と恋仲になりたかったんでありんす。これからずっと鬼の娘を偽ることになっても」

「おい、それってどういう…」


 霧雲は大粒の涙をこぼし、そのまま泣き崩れてしまった。すると、ポケットの中のスマホが鳴った。確認すると晴瑠からだった。


「 もしもし⁉ 緊急事態です。警察から連絡があって、五味山が脱走しました」

「五味山が脱走⁉ こっちも緊急事態だ、 霧雲が如月にすり替わってやがった」

「え⁉ とにかく警察が言うには五味山が跡形もなく、煙のように消えたそうです」

? 霧雲、五味山もお前の仕業か?」


 霧雲は何も言わず、ただ頷いた。つまり五味山じゃなく、霧雲が五味山になりすまして捕まり、脱走したということだ。


「晴瑠、それは五味山じゃなくて霧雲が能力でなりすまして、脱走したんだ」

「五味山は捕まっておらず、南天ちゃんもいない……嫌な予感がします」

「霧雲、お前何か知ってんだろ? 如月はどこだ!?」

「今ごろは五味山と、アジトの廃スクラップ工場に向かっていると思いんす」


 五味山は捕まる前、霧雲に提案をしたそうだ。霧雲は五味山が捕まるときの身代わりをする代わりに、五味山は霧雲が如月と入れ替わる時に如月をさらうと。


「でもあんな大勢の人がいるのに、五味山はどうやって如月をさらったんだ?」

「泰寅様の命をだしにして、脅してついて来させたのでありんしょう」

「卑怯なマネしやがって。そういうことで晴瑠、 俺は今から如月を助けに行く」

「ダメです‼ 警察や安倍家が行きますから、寅くんは待ってて」

「待ってられっかよ‼」


  俺は通話を切って、ベンチから立ち上がった。俺はただの人間の大学生? だからなんだってんだ。 普通なら人間は妖怪に敵わない? 知るかそんなもん。俺が強くなったのは、不幸から人を守るためだ。もう鬼門なんて呼ばせねぇ。


「行く気でありんすね」

「おう。霧雲、アジトまで案内してくれ」

「泰寅様は鬼の娘のことが、好きなんでありんすね」

「……まぁな」






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