第11話 琵琶牧々が奏でるは死の調べ

「丑門くん見えました?」

「いや、まったく見えなかった」


 あの一瞬で電柱を斬ったのか? でも剣なんてどこにも見当たらない。それよりも気になるのは、玄上は俺のことを「鬼門の小僧」と呼んだ。


「おい、爺さん。霧雲の仲間か?」

「霧雲? そんなヤツおったかの?」

「ほら、いなかったか? 花魁姿で煙々羅の」

「別に忘れたってよかろう。わしが『おぬしらを殺す』ってことを覚えておれば、それでよいのじゃから」


 ニイっと笑う玄上法師の言葉に、俺たちが身構えた次の瞬間。


 玄上にかかと落としならぬ、尻尾落としを叩き込む金野さんがいた。しかし、玄上は寸でのところで杖で受け止めていた。


「寅くん受け止めてー‼」

「は⁉」


 さらに声がする方を見上げると、空から如月が落ちてきているところだった。俺は反射的に腕を出した。如月の重さプラス重力に耐えて、なんとか彼女を抱きとめることに成功した。


「寅くんナイスキャッチ。これであたしも落下系ヒロインの仲間入りだね」

「言ってる場合か!? いきなり落ちてくるからビックリしたわ‼」

「ってかコレ、お姫様抱っこじゃん‼ はるるん写真‼ 写真撮って‼」

「いいから降りろ、重い」

「アイタッ⁉」


 手を放し、如月を落とした。それと同時に金野が玄上からバックステップで距離を取り、俺たちの方にやって来た。金野は玄上から全く目を逸らさない。


「お嬢、遅れてすいやせん。よくぞご無事で」

「いえ、助かりました。ありがとうございます」

「南天お嬢も緊急事態とはいえ、投げてしやいすいやせん」

「いえ、金野さん。むしろありがとうございます」


 如月はグッジョブとでも言う様に、金野に親指を立てる。 玄上はというと不気味に笑いながら、こちらへ歩いて来る。


「やるではないか式神の狐。その化けの皮、ぎたくなったわい」

「そういう付喪神のじじぃこそ。次こそ尻尾でがらくたにしてやらぁ」

「『百鬼夜行』が一介、琵琶牧々の玄上法師じゃ」

「安倍家に仕える式神、妖狐の金野九々ただちか


 互いに名乗った後、にらみ合う玄上と金野。金野は振り返らないまま言った。

「お嬢、アレやらせていただきやす」

「……時間には気を付けてくださいね」


 心配そうな晴瑠と対して、金野はフッと鼻で笑った。

「あんなじじい、三分あればお釣りが来やすぜ『参之段さんのだん』!!」


 すると金野の尻尾が三本に増えたかと思うと、少し屈み一気に飛び出した。しかし、玄上は動かない。


「秘曲其の一『流泉りゅうせん』の構え」

 玄上は杖を突いている左手に右手を添えた。金野と玄上がすれ違う。


「確かに三分じゃお釣りが来たな。嗚呼、諸行無常」

 玄上は呟き、左手で持ち上げていた杖が地面についた。それと同時に、金野から鮮血が噴き出し、膝から崩れ落ちた。

「金野‼」

「金野さん‼」

 一番の戦力である金野がこうも簡単にやられてしまった。この事実が俺たちを絶望させた。


「抜刀から納刀までの様を、泉に流れる水になぞらえた『流泉りゅうせん』。もちろん泉とは黄泉よみ、つまりあの世じゃ。さて、次は誰を斬ってやろうかの」


「待て、本来の目的は俺だろ⁉ 殺すなら俺だけにしろ!!」

「丑門くん⁉」

「寅くん‼」

「はて、本来の目的? そんなもん忘れたわい」

「とぼけやがって、くそじじぃがぁ‼」


 俺が殴りに行こうとするのを、如月と晴瑠が必死に食い止める。

「そう喚くな、すぐにお主らも狐の元へ連れて行ってやるわい。さて、まずは狐のあるじである陰陽師の小娘からにしようかの」


「お嬢に……手を出すんじゃねぇ」

「ほう、生きておったか狐。こりゃ驚いた」


金野はよろよろと立ち上がった。出血がひどく、息も荒い。

「お嬢が危ねぇってのに、死んでられるかってんだ‼」

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