第9話 百鬼夜行襲来

「それから鷹助ようすけさんに鍛えてもらったり、ケンカを教えてもらったりしたんだ。さすがに、鬼より強くはなれなかったけどな」

「それでも並の妖怪とタイマン張れるんだから、丑門はやっぱり凄いなぁ」


 数秒経って俺たちは、やっと薄影がいることに気づいた。晴瑠は驚いているが、俺と小毬はいつものことなのでもう驚かない。慣れって恐ろしいな。


「よっ丑門、いつものことながら勝手にお邪魔してるよ」

「いっつも思うんだけど、鍵閉めてんのにお前どうやって入ってんの?」

「僕の能力は存在感を消して、自由に建物に侵入できるんだ。名付けるならそうだな、『招かれざる客インビジブル・マン』とかカッコよくない?」

「犯罪にしか使い道なさそうな能力だな、それ」


 へらへらと笑う薄影の前のテーブルには、空のプリンの容器が置かれていた。

「あ‼ そのプリン、冷蔵庫に入れてたヤツじゃん‼」

「3つあったから、1つは僕の分かなって」

「アンタの分があるわけないでしょ!? 1つは泰寅で、2つはウチの分よ‼」

 人モードの小毬が爪を立てて薄影に襲い掛かる。でも彼はへらへらと笑いながら、難なく小毬の引っ掻き攻撃を避けている。


 俺がふと晴瑠の方を見ると薄影を警戒してか、彼女の手にはおふだが握られていた。そういえば、晴瑠と薄影は初対面だったな。


「コイツはぬらりひょんの薄影。俺のアパートのお隣さんで同級生だよ」

「なんか怪しくないですか? あの煙々羅が化けてるかもしれません」

「コイツは霧雲ニセモノじゃなくて薄影ホンモノだよ。不法侵入したり、つまみ食いをする図々しさは紛れもなく薄影だ」

「どんな判別の仕方してるんですか」


 それに、薄影が俺の命を狙ってるヤツの仲間である可能性も低い。顔見知りでかつ、能力で簡単に忍び込める薄影なら、俺の命を狙うチャンスはいくらでもあったはずだ。


「待てよ? くだんの予言を敵が知ってるなら、如月一人じゃ危険じゃないのか⁉」

「大丈夫ですよ、金野が夜通し見張ってくれてますし。あんぱんと牛乳持って」

「いつの時代の刑事の張り込みだよ?」


 まぁ、金野さんがいるなら安心か。あの人の強さは俺がテレビ付喪神に襲われてた時に一瞬だけど見たからな。あれでもまだ本気じゃないって、晴瑠が言ってたけど金野さんの本気ってどんだけ凄いんだろう。


 そんなことを考えていると、晴瑠が突然立ち上がってベランダの方を見つめた。

「どうした晴瑠? 急に立ち上がったりなんかして」

「大きな妖気がこっちに向かってきてます。これは、妖怪の大群?」

「数はどれくらいだ?」

「50体以上、いえ100体はいるでしょうか。とりあえず外に出ましょう!!」

「一応、小毬は部屋で待っとけ。薄影、お前は早く帰れよ」


 俺と晴瑠は部屋を飛び出し、急いでアパートの前の道に出た。暗くてよく見えないが、遠くでガチャガチャと鳴っているのが聞こえた。その音のする方を向くと、中古家電の付喪神の群勢が行進しているのが街灯でぼんやりと見えた。


 その光景を見た俺の頭の中には、ある言葉がよぎっていた。

百鬼夜行ひゃっきやぎょうには、十分にお気をつけおくんなまし』


 晴瑠は大量のお札をどこからともなく取り出し、臨戦態勢に入っていた。

「これが煙々羅の言ってた百鬼夜行ですかね?」

「でもコレは多勢に無勢ってもんじゃねぇぞ、せめて金野さんがいてくれたら」

「陰陽師をナメないでください。金野がいなくても私は戦えますよ?」

「晴瑠は陰陽術で戦えるかもしれないけどさ。テレビ付喪神に苦戦してた俺なんて、足手まといにしかならねぇよ」


 自分の無力さが情けなくて、思わず弱音を吐いた俺に晴瑠はニヤリと笑った。

「そんな丑門君のために、私が安倍家に伝わる対妖怪戦闘術を教えましょう。キーワードは『気合い』です」

「『気合い』?」






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