第6話 キケンな香りの煙々羅
小毬の偽物は煙のように広がり、再び纏まると右手に
「わっちは
霧雲は煙管を咥え一服した。俺は彼女のただならぬ雰囲気に身構える。拳を固めてみたものの彼女は煙の妖怪、多分物理攻撃は効かない。
「その霧雲さんが俺に何の用だ?」
「今日はお話があって参りんした。実はわっち、ある方から泰寅様を殺すように依頼されていんす」
「なっ⁉」
俺を殺す? 誰が何のためにそんなことを頼んだ?
そんなことを聞いたとしても、流石に教えてはくれないだろう。ここは黙って霧雲の話を聞き、隙を見て逃げるしかない。
「でも少し前のことでありんした。泰寅様がお一人で人間や、手長足長の不良共と喧嘩しているのを見んした。そのお姿はまるで鬼神のようでありんした」
頬に手を当てホッとため息をつく霧雲。心なしか彼女の顔が赤い。
霧雲は宙に漂わせた煙を煙管でかき回しているが、まったく隙が無い。
「その闘いぶりを見たわっちは、この仕事に私情は禁物だというのに泰寅様にすっかり一目惚れをしたんでありんす」
「はぁ?」
霧雲の予想の斜め右をいく言葉に、思わず拍子抜けした声を出してしまった。当の彼女は言ってしまった、とでも言うように両手で顔を隠して悶えている。
「それからわっちはより詳しく泰寅様を調べるため、後を
「それただのストーカーだろ⁉」
「違いんす‼ 調査の一環でありんす」
せっかく命の危険は免れたと思ってたら、別の危険が迫ってたんだけど⁉
「確かに泰寅様とお話したくて、電話を掛けたことは何回かありんした。でも緊張して声が出なかったんでありんす。こう見えてわっち、恋には奥手で…」
「思いっきり私情挟んでんじゃねぇか。奥手どころか、充分攻めてるよ」
結局のところ
「それで昨日、泰寅様の化け猫が大学に行きたいという話を盗聴器で聞きんして、これは絶好の機会だと思いこうして直接会いに来んした」
「何サラッと余罪を暴露してんの⁉ いつの間に
霧雲はまた顔を赤らめ、恥ずかしそうに体をもじもじとよじらせた。
「泰寅様‼ わっちと、恋仲になってくれんせんか?」
「こちらこそよろしく、ってなるわけねぇだろうが!!」
霧雲は驚きで固まり、右手に持っていた煙管を落としてしまった。
「どうしてでありんすか? 見た目に問題がありんすか? それとも煙管を吸う女は嫌いでありんすか? もしそうならすぐに禁煙しんす‼」
「見た目はまだしも、中身に問題があるわ‼ あとスモーキングじゃなくてストーキングをやめろ‼」
すると遠くから如月や晴瑠、そして小毬がこちらに来ているのが見えた。
「邪魔が入ってしまいんしたね。ではお別れの前に、『
すると香から着物の袖口や裾から物凄い勢いで煙が噴き出し、一瞬で視界が真っ白になった。急いで口を腕で覆うが、少し煙を吸ってしまい咳き込んだ。
「泰寅様、また近いうちに逢いんしょう」
「ん⁉」
口を覆っていた腕を取られ、唇を柔らかい何かが触れた。煙が晴れると、そこに彼女の姿は無かった。
その後、如月が俺を見て泣き喚き、小毬はニヤニヤしだした。晴瑠に鏡を見せてもらうと、俺の唇に口紅がついていた。俺は霧雲に唇を奪われた。
それが俺のファーストキスだったって言ったら、多分如月は卒倒するかもしれない。
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