Different Dimension 1.封印の書

緋村次郎

第1話 追憶の前




ガンッ!!


剣の鞘で頭を殴られ、5m吹っ飛んだ。


この世界ではよっぽどの怪我でも死なないが、痛みは感じる。

目の前に星でも見えそうな強烈な痛みで、立ち上がれなかった。


それでも必死に相手を見なければならない。

次の一撃をまともに喰らわないように。


しかし、そう思ったのも束の間。

脇腹に強烈な蹴りを受けて、また5m位吹っ飛んだ。


それでもう、動く事は出来なかった。





バルバドス「何故、殴られたか言ってみろ。」


ヴィント「・・・。」


まだ、喋れる状態ではなかった。

頭が朦朧としていて、バルバドスの声も、理解出来ていなかった。




ーーー




静かな夜。


レンガの通りに、月明かりの夜空、雲は多く、風はゆっくりで冷たい。


そこを歩く中年男性。

165cm位の身長で、体重は60kg程度。

歩くスピードはゆっくりで、音楽を聞いている。





その男を尾けていた。

服擦れの音が出にくい黒めの服を着て、静かに。


既に8回の機会があったが、実行出来なかった。

そしてその状況に焦っていた。


失敗は許されないのだ。

それは理解しているが、その男を殺す事にも抵抗があるのだ。


殺すと言っても、この世界での死は終わりではなかった。

元の世界に戻ってしまう事

保存した記憶以外を失ってしまう事

身に付けた力の一部を失ってしまう事

それ以外にも問題はあるが、終わりではなかった。


けれど、恐怖は感じ、怪我は痛み、苦痛を感じる。

人を傷付ける事が怖い彼は、それ故、一撃で仕留める必要があった。


簡単に死なないが、急所というものはある。

人工体を相手には、練習で8割程度の成功率で一撃で仕留めていた。


けれど実際の人間となると、傷付ける事が怖かった。

望まずとも、どうしてもやらなきゃならなかった。


そのジレンマから、体は動かなかった。





9回目の機会を失った瞬間、狙っていた男は自然に倒れた。


物音立てずに倒れこんだ。

いや、地面に倒れこむ寸前に、一人の男が現れて、一緒に消えた。


消えた事に気付いてすぐ、目の前が一瞬に真っ暗になって、微睡みに落ちていった。




ーーー




ザバァ!


突然、水を掛けられて目が覚めた。

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