かえるのウォータースライダー

大澤大地

かえるのウォータースライダー

この時をずっと待っていた。

もこもこと雲が空を覆い、

雨の匂いが満ちていく。


自然と歌声が漏れてしまう。

「グワッグワッグワッ」

じめじめした空気に黄緑色の肌もつやつや輝き、

胸がドキドキしてくる。

この時のために昨日から壁をよじ登り、

日の当たらないサッシの影に隠れている。

さあ、いつでも来い。


ぽつぽつと屋根に水玉模様ができてきた。

足の水かきがむずむずしてくる。

まだだ、まだ早い。


空がゴロゴロと鳴き、ピカッと光る。

すると雨が急に強まってきた。

土砂降りの雨が屋根をつたい、

滝のように雨どいに流れ込む。

雨どいの中には激流が出来上がっていた。


今だ!

覚悟を決めて激流に飛び込む。

体がどんどん押し流される。

流れに身をまかせると体をもみくちゃにされた。

雨どいがつるつるして気持ちいい。


やがて前の方に渦が見えてくる。

水がまっすぐ下に流れ落ちているのだ。

さあて、クライマックスだ。

「ゲコッ、ゲコ―!」

渦のなかでまるで洗濯機のようにぐるぐる回転しながら落ちていく。

もみくちゃにされた体がなぜかとても気持ちがいい。


ああ、ずっとこうしていたい。

そう思う間もなかった。

ゴボボボボー、びゅるん!

そしてぴょこっと出口から吐き出されてしまう。


しばらく頭がボーっとして動けなかった。

やがて落ち着いてくるとまた胸がドキドキしてくる。

よし!もう一回行くか!

かえるはまた、壁を登り始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かえるのウォータースライダー 大澤大地 @zidanethe3rd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ