第10話 古(いにしえ)の桜

捨てられた山里に

桜の古木は一人立つ


遠い昔の想い出は

根本に敷かれた緋毛氈ひもうせん

塗りの杯に濁り酒

宴もければ笛の音が

ひらひらひらと舞扇

散る花びらを惜しむ音

遥か高みに冴える月


人の絶えた山里の

桜の古木に花が咲く


うつらうつらの想いでは

おきなおうな幼童わらべまで

頬はほんのり桜色

唄い踊れば花吹雪

緋毛氈まで桜色

誰が打つやら小鼓が

里の隅まで冴え渡る


失せたる夢に今日もまた

昔を偲び居眠りたるや

花もまばらな桜の古木

帰らぬ日々の愛しさよ

愛しさよ・・・・・

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