黒幕は何処に?

 火の手が上がる街に近づくにつれ、戦況がわかってきた。集結予定の諸侯軍に王都の駐留軍が奇襲をかけているようだ。無理に市街に突入せず、敵の退路を断つ素振りを見せることで、敵は自ら包囲を解いた。退路を微妙に残しつつ後輩と側面から攻撃を加え敵兵力をそぎ取る。窮鼠にして余計な損害をこうむるのも馬鹿らしいので、適当なところで追撃を止めた。


 町の方は酷い有様だった。もともと王都に近い位置にあったため治安もよく、防御施設らしいものも必要とされていなかった。そもそもグラナダ要塞を抜いてくることすら想定されていなかったのである。しかし、王都側が自らの旗下にある街を焼き払うのは流石に予想外だった。焼け出された住民に天幕で住居を提供し食料なども提供した。損害を受けた諸侯軍は、それでも500ほどの兵力となったので、後方の街道確保を依頼した。また、ベルティエからグラナダまでの経路の領主に協力を依頼したところ、物資や、街道維持の治安部隊の提供があったため、そのまま兵站線維持はなんとかなりそうだ。

 別働隊となっているオルレアンとアルフェンス両軍に事情を説明し同時に輜重の防備を固めるよう指示を出す。グラナダを抜いてから王都側の戦術は一貫している。こちらの兵站に負荷をかけることで軍を持できないように仕掛けてきているのだ。こういう手を取る将がいるのかと聞いてみたが、内政バカの宰相と、脳筋の騎士団長ではこんな搦手を使うとは思えない。むしろ黒幕の存在を際立たせているように思えた。


 ベルティエの街周辺に土塁を作り空堀を作る。柵を立て主要な位置に櫓を建てた。いつもの野戦築城である。王都駐留軍がこちらの兵が集結する前に攻撃を仕掛けてくる可能性があった。というか、斥候の報告には出撃準備が着々と整っているとの報告があった。オルレアンとアルフェンス軍は明日の日暮れ頃の到着予定と先触れが来た。そして、南北の道を塞ぐ形で王都周辺の諸侯軍と、王都駐留軍が布陣を始めている。これでこちらの軍の合流を防ぎ、大将の首を取れが敵の勝ちといった様子か。敵さんから見たら俺は兵力を分散させた挙句敵地に深入りして退路を断たれ、敗北した阿呆ということになるんだろうな。


 早朝から敵は降伏勧告すらなしで攻め寄せてきた。もともと兵力が不利な状況で戦うことが多いこともあり、投射兵器の数は通常より多く配備している。おかげでうちの弓兵は練度が高まる一方だ。あ、いいことじゃないか。

「うて!撃ちまくれ!」

「敵盾兵接近、魔法兵前に!・・・ファイアボール一斉掃射準備・・・今!」

近衛ほどではないが敵も精鋭である。なかなか損害を与えられない。もともと防御に有利な地形でもないのでこのままだとジリ貧だろう。両方決め手に欠けたまま日は中天に移動していた。そして風の精霊が俺が待ち望んでいた情報を持ち帰った。


 さて、先日中隊規模で各地に散らした近衛騎士団だが、もともと王都周辺を縄張りとしており、周辺の地理には詳しい。北の街道を封鎖しているのは諸侯勢1000。法衣貴族のなんとか伯爵が傭兵中心で兵を集めていた。重装歩兵をガッチリと横陣に配置し、柵を連ねて騎兵突撃に備えていた。オルレアン勢を相手にするのであれば、その備えは正しい。だが、オルアレン勢を前にして彼らは近衛騎士2000の奇襲を背後から受けていた。挟撃を受け、傭兵主体の軍は瞬時に四散した。その光景を櫓から確認していた兵が拡声の呪文を使い、敵味方に知らせた。

「北部街道より近衛2000とオルレアン1500が接近中。援軍が来たぞ!!」

「好機だ、ラーハルト軍、残敵を掃討するぞ!かかれ!」

「勝った!」「勝ったぞ!」「我らの勝ちだ!」

兵たちは口々に勝ったと叫びながら敵兵に躍りかかった。後方を遮断されたと信じた敵兵はもろく一気に崩れる。そこをオルレアンの騎兵が蹂躙し、王都に繋がる間道を逃げる兵は近衛騎士の追撃で更にその数を減らした。

 南方街道にはレックス率いるバルデン勢が襲いかかり、巨大な戦斧を振り回すレックスの武勇は王都の兵を震え上がらせたのである。そしてアルフェンス軍が王都の主街道を封鎖したとの連絡を受けた。そのまま軍を進めて合流し、王都の包囲を開始した。

城内の守備兵は1000足らず。規模に対して兵力があまりに不足している。敵首脳部は、1の郭と2の郭は放棄し、3の郭、すなわち王城部分での籠城を選択したのである。もはや降伏しかないような状況で何故籠城を選択したのか?ここで俺は最大級の聞きたくなかった報告を受けた。

 北方のファフニル王国が国境を越え侵攻を開始してきた。その数15000、国境守備隊は王都付近に引き上げられており、阻むものがない状況で、3日ほどでこちらに到着するらしい。

要するに3日以内に王都を落とし、後顧の憂いを断ち切ったうえで15000の敵軍を撃破する。さもなくば滅亡という。愉快な状況である。

ああもう、俺の方には王国の命運とやらは重たすぎる気がするんだが。どうしてこうなった?

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