後方を固めないとおちおち遠征ってできません

 軍をバルデン領都に進めた。バルデン領軍は降伏したものをレックス卿の指揮下にいれ、捕虜の返還を条件に領都からの軍撤退を交渉し、やたらあっさりと承諾された。あのオークもどきはよほど重要人物であったらしい。噂が真なら王女の婚約者だから、将来の王配・・・あんなのを主君としたくないものだな。うん、頑張ってイリス王女を助けよう。

 バーサークしたルドルフ卿はミリアムの一言で我に返った。

「お父様なんか嫌いです」

その一言でこの世の絶望を体現したような表情を見せ、崩れ落ちた。

「嘘ですよ。お父様、大好きです。私のエレスにいじわるするから、私もちょっといじわるしちゃいました」(にっこり

「ミリィちゃああああああああああああああん」(号泣

相変わらず暑苦しいがなんかうまく操縦されてるっていうか、オルレアン、乗っ取られるんじゃないかあれ。幹部連中もなんかデレデレになってやがるし。てゆーか、ガチで殺す勢いでメイス振り回したのが意地悪ですかそうですか。やれやれ、困ったもんだ。


 レックス卿を先頭にバルデン領都に入る。どうもあの親子は領民に人気がないのか、諸手を上げて歓迎された。それ以上にオークもどきが不人気の根源らしい。王都でやらかしてたのと同レベル以上でやらかした上、親の権力でもみ消すという所業は領民の心を離すに十分だったのだろう。

そういえば俺に黒狼の騎士とかいう呼び名が広まっているらしい。一応名声になるものなので、黙認した。こっ恥ずかしいが虚名であっても人気取りができるならそれで良いと割り切る。

さて、領都が落ちたことで、日和見を続けていた土豪がこちらについた。その手勢を動員して領内の治安維持に当てる。同時に街道に拠点を置き、兵を常駐させて補給線を確保した。進撃の準備を整えつつ、兵に交代で休暇を与える。王都周辺の諸侯に使者を送り揺さぶりをかける。俺は領内にいた時と同様、いやそれ以上の書類の山に埋もれるのだった。


 シリウスをもふもふして癒やされていると、王都のオーギュスト卿がグラナダ要塞に入ったとの知らせが入った。こちらの領都を退去した近衛もグラナダに入ったようだ。この要塞を抜けば、王都周辺の諸侯は此方につくだろうが、現状は日和見を続けるだろう。まして、難攻不落の要塞に一緒に挑むなど、狂気の所業である。まともにやってはあの要塞は抜けない。どうしたものか・・・


 要塞を落とすのに必要な手を打ったが、最後の一手だけが不確実な状態で軍を進めることとなった。軍勢というのはいるだけで物資や資金を食い潰す。そして、うちには無駄飯を食わせる余力はない。当たり前だが進軍中の乱暴・略奪は厳禁とした。銅貨一枚を盗んだものは斬ると布告を出し、各諸侯の威令もあって、罰を下す必要がなかったのは幸いだった。

そしてバルデン領都を出て1週間。靄がかかる河の向こうに巨大な城壁がそびえ立っているのを目の当たりにする。グラナダ要塞攻防戦は静かに幕を開けた。

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