迎撃戦と思いがけない展開と
「敵軍前衛、接敵ライン突破!」
「カイル、ぶちかませ!」
「了解!魔法を使う。絶対に前に出るな!」
オオオオオオオオオオ!兵は喚声でその指示に答えた。
ロングソードを抜き放ち呪文を唱える。
【盟約に従い来たれ風の精霊よ 渦巻き逆巻きすべてを切り裂け 無影の刃よ!サイクロン・エッジ!!】
振りかざした剣の切っ先から竜巻が解き放たれ、荒れ狂うかまいたちが敵兵をミンチにしてゆく。
敵もさるもの、素早く散開し被害はそれほど多くない。土塁に身を伏せ、柵越しに放つ矢で敵兵は徐々に被害を増やしてゆく。
「備前、損害はどうだ?」
「負傷者が数名出ましたが、戦死は0でござる」
「敵に与えた損害はどうだ?」
「些少にござる、なかなか駆け引きがうまい。我が方の誘いに乗る気配もありませぬな」
「ふむ、引いたと見せて引きずり込むか」
「左様ですな。弓隊、いったん射撃の手を緩めよ。敵を誘い込む」
「柵が破られそうになったら第二陣まで下がるんだ、急げ!」
矢の攻勢が衰えるとバックラー装備の敵兵が前衛に立ち、手斧を使って柵を切り崩し始めた。もともと地の利があって初めて優勢に戦えている状況である。柵を乗り越えた敵兵数人を切り倒すと、魔法兵に攻撃魔法を一斉に撃たせる。敵が怯んだ隙に兵を後退させた。
第二の柵に兵を収容したあと、水魔法の使える兵に一斉にウォーターボールを放たせた。殺傷能力は低く、どちらかと言うと捕縛用に使われる魔法である。10名が連続で放ったため、柵の前が泥濘に覆われた。足を取られながらも敵兵は柵に殺到してくる。
「トモノリ!出番だ!」
「承知!我が奥義、彼奴らにはもったいないが、冥土の土産とせよ」
【我雷神に願い奉る 防人たる我が名と縁により その神名をもて敵を討ち払わん 雷切!】
東方から伝わる曲刀、カタナを地面に突き立てた瞬間、蛇のように雷光がほとばしる。ぬかるんだ地面を伝って雷撃が敵陣を駆け巡った。一瞬の閃光ののち、押し寄せていた敵兵が全て倒れ伏している。それを見た後続は流石に立ち止まっている。倒れ伏す兵に情け容赦なく矢を浴びせ少しでも数を減らす。
そういえば以前聞いたことがあった。刀の銘は千鳥というらしい。なんでも、ご先祖様が雷を纏った魔獣、ヌエを倒したとか。その際に別名として雷を切ったカタナ「雷切」と呼ばれるようになったと。
もういっそ怪しさが突き抜けてしまう様相だった。ただの盗賊団ではありえない戦意を持って倒れ伏した味方の死体を盾にしてジワジワと寄せてくる。矢が切れる頃合いで後退の指示を出したが敵もなりふり構わず追撃してきた。魔法兵も魔力が切れつつあり、一斉攻撃も効果が薄い。
第3陣への後退も追撃を押し返しながら敵の勢いに飲まれないように下がる。しかし、朝からの連戦で、数の少ないこちらは疲労を貯めこんでおり動きに精彩を欠き始めた。矢を受け倒れる兵が出始める。まもなく陣に到着しようとするが敵の勢いを押し返すことができず、このままでは付け入られてしまう。まずい、このままでは全滅しかねんと嫌な汗が背中をつたい始めた時、やたら明るい声で呪文が響き渡った。
【女神よ 汝が愛子を慈愛の翼もて包み給え・・・ディバイン・ランパート】
高位の戦術級魔法、部隊単位で防御力を上げ、さらに回復効果もある複合支援法術。
こんな高位魔法誰が使ってるんだ!?
「続けていきます!【輝きよ 煌めき集い我が敵を打払う驟雨となれ ライトニング・アローレイン】」
真上から光属性の魔法矢が降り注ぎ、敵の先陣を薙ぎ払った。
ワァァァァァ!!
喚声があがり、側面から王家の紋章を掲げた騎士たちが切り込む。追撃してきた敵兵が混乱し、潰走していった。そして戦場にあるまじきことながら、俺は呆然として櫓の上からすっごくイイ笑顔でこちらに向かって手を振る、第二王女イリスを見上げていた。
「なんでここにいるんですかあああああああああああああああ!!!!」
「え、手紙、読んでないんですか?」
きょとんと問い返す王女と、戻ってきた王女の護衛騎士がこちらに向け、イイ笑顔をしていたのが対照的だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます