私だけじゃなかった〜非情な事実。

 博打な世界に住んでいた女性の話。


 彼女は大和撫子の風情ではなかったけれど、驚くほど整理整頓された部屋に住んでいた。仕事柄なのか?


 離婚歴があり、一番最初の旦那さんと、離婚してしまったのは失敗だった、と言った。俺は、お世辞にも美しいとは言えない60歳くらいのやくざな年配女性の口調に、”仕事柄”を見た。彼女は、ガラの悪い下町で、小さな賭博場を経営して生計を立てていた。夕方から開ける。


 とても繊細とは思えない風貌と裏腹に、ひどくショックな出来事があったことを俺は噂で聞いて、知った。


 自分がずっと、”恋人”と思って慕っていた男性が、事故にあったらしい。もちろん自分は彼女、着替えや当面に必要なものを持って、慌てて病院に駆けつけたら、”お前はもう来なくていい”と、本人に追い返された。本命の彼女が既に病室に来ていて、毎日、せっせと世話をしている様子。


 自分が彼の彼女と思っていたのに、彼には、ちゃっかり別のステディがいた。

付き合っていると思っていたのは自分だけで、彼にとって、彼女は”遊び”の女。


 なんというか、その話を聞いて、ものすごく彼女が不憫に感じた俺。その理由はわからないが、見た目や年齢と関係なく、恋する時は誰でも、まるで”乙女”のように純粋だからだろうか。


 パンチパーマで鬼婆のような顔をした彼女は、本当にやくざっぽかったが、それも仕事柄、生まれつきの顔、仕方ない。俺の知らない間に、癌でこの世を去ったが、さよならが言えなかったことが、悔やまれる。


 怪我や病気で入院すると、その人が最も近しい人は誰なのか、ということが露呈する。隠された関係にいる人は、表に出ることができないため、ひどく苦しまねばならない。


 大和撫子は、正妻ばかりでない。試練にも耐え忍ばねばならない立場を選んででも、好きな人と覚悟の上で、愛人であっても添い遂げたい、というのは、ある意味、何があっても、びくともしない、揺るぎない強い愛情が必要。


 愛とは試練によって育まれるのか、はたまた、強い愛が試練で証明されるのか、なんとも言えない気分になることが多い。


 そういえば彼女に似合う言葉は、悪女の深情け。彼女の冥福を祈りたい。

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