【掌編集】階段 他

卯月

階段

 私の一人娘は、三歳で亡くなりました。


 あの日、私と娘は、母と兄夫婦が住む実家を訪れました。兄は仕事で不在。母が外出からまだ戻らないとのことで、兄嫁が私たちを迎えてくれました。

 私はお手洗いに行きたくて、兄嫁に娘をお願いしました。しかし、兄嫁の携帯に電話がかかってきて応対している間に、娘がいなくなってしまったのだそうです。私が見つけたとき、娘は、二階へ繋がる階段の下で、ぐったりしていました。


 すぐに救急車を呼んだけれど、助からなかった。


 一人で勝手に二階へ行こうとして、階段で足を踏み外したのだろう。と、兄や母は言いました。

 私が目を離したせいでごめんなさい。と、兄嫁は泣いて謝りました。


 翌年、兄夫婦が子供を授かりました。私は知らなかったけれども、何年も不妊治療をしていたのだそうです。

 娘の件以降、私は実家に近づかなかったし、周囲も気を遣って、兄嫁の妊娠を私の耳に入れないようにしていたようです。私がそれを知ったのは、無事に女の子が産まれたあとでした。

 おめでたいことですので、もちろん、お祝いしました。


 そのとき産まれた子が、もうすぐ三歳になります。私も今は立ち直り、実家と普通に行き来していますので、行った際には姪とも遊びます。とても可愛い女の子で、私にも懐いてくれています。

 この子が三歳になったら、ある言葉を教えてあげましょう。

 そして、それをあなたのお母さんに言ってあげてね。


「今度は、落とさないでね」


 娘は、実家の薄暗い二階が怖くて、決して一人では階段を上らない子でした。

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