不透明な

椎木

第1話


個性的。変な人。変わってる。面白い。

ありがとう。それ全部、私にとっては褒め言葉。

個性的なものが好き。

人と同じことが嫌い。だから、人とは少し違うことをする。

物事を引っ張っていくのが好き。

目立つことは別に怖くない。

十七歳。普通に高校に通い、普通に家に帰り、普通に勉強をし、普通に友達と遊ぶ、普通の女子高生。


だと、いいねって話。


誰が私にそうあってほしいと望むのか。

もちろん私じゃない、親である。


高校に入ってすぐに、体と心のバランスを崩した。

毎日が憂鬱。気分の波は激しく、自分でもコントロールできない。

学校は、二年生の今年の秋に休学した。


休学を選んだ時、家族は猛反対だった。


わかるよ、家族の言いたいことは。

ちゃんと高校生活送って卒業して大学なり就職なり、"普通"の人生を歩んでほしい、そういうこと。


自分でも驚くほどに、気力と体力は毎日すり減る。


死んでるように生きてたんだ。


この世に留まるも彷徨う、亡霊かゾンビのようだった。

朝起きるのも精一杯。

起きても、何もする気が起きない。

何を見ても、やっても、楽しくない。

感情がただただ重く、波打つこともなく、心の深く底に沈んだまま浮き上がらないの。

ただ、一日一日をぼーっと見送っていた。


もう少し頑張れ

これから先どうするつもり?

仕事に就けないよ

お願いだから頑張って


家族も担任の先生も、必死に私に言う。

あのね、頑張れない。

そんな力があったら休学なんて選ばない。


親戚とかにどう説明するの?

近所の人とか友達とかには絶対言っちゃだめだからね。

恥ずかしくてそんなこと言えないよ。


恥ずかしい道を選んでごめんなさい。

恥ずかしい子でごめんなさい。


頑張れって私を説得しようとする父と、

滅多に泣かない母が泣く姿。

なんとか私を卒業させようと励ます担任の先生。


どうやって頑張ればいいの?

これ以上、どうしたらいいの?

限界よ、これが私の。

こんな子で、ごめんなさい。


家族とたくさん話し合った後、休学届を提出した。

それと、お金を稼ぎたかったので、アルバイト許可証という紙を貰った。

具合が悪いのにバイトなんかできるの?って聞かれたから、うん、できるよって答えた。

心身のバランスが崩れた理由はわかっている。

でもそれは、バイトをしてお金を稼ぐことの足枷にはならない。


誇れない娘で、孫で、落胆させて悲しませて傷つけてごめんなさい。


弱い自分が恥ずかしくて

でもこれから恥ずかしい思いをするのは家族で、

私は家族にどれだけの荷物を背負わせたんだろうって

激しい自責の念。





「幽霊が出ないところがいいです」

そう、あなたに伝えたのを、今でもあなたは覚えてる。


突発的な行動常習者の私はひとり暮らしを試みて、ひとりで不動産屋のお店に来た。

"普通"じゃない。

わかってる。

自分で自分を客観的に見ると、とてもおかしな行動だと思う。

誰も思いつかないようなことをする。


お金のことを考えると、バイト代でギリギリひとりの生活を賄えるくらいだ。

家から逃げ出したかった。

家族と近くにいる分、色々な思いが私にのしかかる。

自責。

羞恥。

罪悪感。

謝罪。

入り交じって、重たくどろりと心の中に棲みつく。

そろそろ私はそれに食われるんじゃないか。

自業自得。

わかってる、わかってる。


「いやぁ、幽霊が出ないところは俺にはわからないなぁ」

お店のスタッフさんは可笑しそうに目を細めて笑った。

「でも、十七でひとり暮らしなんて偉いね」

偉いのか?ただのわがままだと思う。

「家を出たいだけですよー」



だれか、

私をここから掬い上げて。

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