饒舌なる死者3話目

 何んとか由利亜と穏便に別れるために、二人の間に距離を置こう考えた。

 うちの親が留守の日に俺の部屋に由利亜を呼んでセックスしていたが、こういう関係をもう止めたいと思い始めた。

 処女だった由利亜も一緒にアダルトDVDを観て、テクニックも身につけさせたし、快楽に目覚めさせて一人前の女になったことだし、俺でなくてもやっていけるだろう。

 その日、シャワーを浴びて帰ろうとする由利亜に、ついに俺は話を切り出した。

「受験も追い込みだし、俺は勉強に集中したい。だから入試が決まるまで、当分お互いに逢うのは止めようぜー」

 そう話を持ちかけたら、ショックのあまり急に泣きだして「逢えないなんて嫌だー!」と発狂しそうになっていた。

 なだめるように、逢うのは無理だけどメールくらいなら構わないと由利亜に言ったら……その日から、朝昼晩、寝る前に、一日20通以上メールを送ってくる始末だ。

 逢わないと言っているのに……学校の食堂や塾まで俺と同じにして、いつも少し離れた場所からこっちをジーッと見てやがるから――マジ気持ち悪くなってきた。

 そんなある日、突然電話が掛かってきて、緊急の用件だから逢って欲しいと懇願された。勉強が忙しいからと一旦は断ったが、五分でも十分でもいいからと……泣かれて、仕方なく、スタバで逢うことを約束させられた。

 わざと待ち合わせに遅れて行ったら、由利亜はテラスの席に座って待っていた。しばらく振りに逢ったら、少し痩せたように見える。

 コーヒーを持って席に着いた俺は、ぶっきら棒に訊ねた。

「で、緊急の用件ってなんだよ?」

 すがるような目で俺を見ていたが、ガクリとこうべを垂れて泣きそうな声で言った。

「わたし……妊娠したみたい……」

「はぁー!?」

 俺は飲んでたコーヒーを噴き出しそうになった。

「――生理がこないの。二ヶ月もない」

「ちょっと待てよ。それってホントなのか? 俺はいつもちゃんと避妊していたぞ」

 俺たちは高校生だから――。頭の悪いDQN(ドキュン)じゃあるまいし、女の子を妊娠させて学校を退学させられるのなんて真っ平だ。それだけは細心の注意をしてセックスしていたのに――。

「病院で看て貰った? 妊娠検査薬で調べた結果なのか?」

「ううん。まだ……だけど……」

 曖昧な返答だった。

「だったら、妊娠したとか言って俺を驚かせるなよ」

「だって、生理がないから心配で……」

「おまえの妊娠なんか知らない!」

 わざと冷たく突き放した。

「俺に言いがかりつけて受験勉強の邪魔するんじゃないっ!」

 頭にきた俺は語気も荒く叱りつけた。

「あなたに逢えなくて……寂しくて……寂しくて……」

 とうとう由利亜はテーブルにうっぷして泣き崩れた。

 ああー、この粘着する女からどうやったらのがれられるんだ。こいつは《女神》なんかじゃない。俺にとってはただのだった――。

 女なんか、抱いてしまえばどいつも皆同じじゃないか! 俺的には、由利亜をモノにした時点でゲームセットにするつもりだったのに……。

 ちくしょう! 古賀のせいで、こんな地雷みたいな女を踏んじまったじゃねぇーか!

 イライラした俺は心の中で毒づいていた。 

 待てよ。……そうだ! この女を古賀に押しつけてやればいいんだ。――その時、俺は頭で姦計かんけいを巡らしていた。


 家に帰ってから、中学の生徒名簿から古賀真司の電話番号を探して、あいつの自宅に電話をかけた。

 最初に祖母とおぼしき老婆がでた。耳が遠いらしく、こっちの名前をなかなか聴き取れなくて、俺をイライラさせた。

 ずいぶん待たされて、やっと古賀が出たが俺からの電話にいぶかし気な声だった。

「もしもし……なんか用?」

「昔さ、おまえに助けられたことあったよな?」

「はぁ?」

「不良に絡まれた時さ、大声で助けを求めてくれたじゃないか?」

「あ、そうだったっけ?」

 とぼけてやがるが、絶対に忘れるはずない。

「それで、今更だけどお礼がしたいんだ」

「…………」

 俺の申し出に不審に思ったのか、古賀は黙ってしまった。

鈴木由利亜すずき ゆりあにその話をしたら、自分からも古賀君にお礼がしたいっていうんだ」

「由利亜さんが……?」

「そう。俺ンちでミニ・パーティしよう。三人でさぁー」

「……俺はいいよ」

「そんなこと言うなよ。由利亜がおまえに会いたいって言ってるんだぞ!」

「だけど……」

 古賀は俺の話に疑いながらも、鈴木由利亜の名前には強烈に惹かれているようだった。よし、もうひと押しだ!

「由利亜が古賀にあげたいモノがあるらしいぜ」

「えっ? 本当に……俺に?」

 急に嬉しそうな古賀の声だった。

「そうだ! だから楽しみにして俺ンちに来いよ」

 その後、日時を決めて一方的に告げた。

 半信半疑ながらも由利亜信者の古賀は、憧れの由利亜さまに会えることと、プレゼントを貰えるかも知れないという甘い期待に、俺の申し出を断われなかった。

 電話を切った俺は、ニンマリと笑った。

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