短編衆

東条

序章 簡単な世界創造をしでかそうとする友人に関して

世界を作るのって難しいよな、と友人が言ったのは放課後の事だった。一体何を言っているんだ、とその顔を見る。いつも通り眠たげでつまらなそうな顔。風邪を引いている訳ではないらしい。いや、熱が出ていないのにも関わらずこんな突拍子もない事を言いだすというのは、それはそれでやばい気もするんだが。

「だって、創作って小説とか絵にするのが普通だろ。でも知ってるのって自分だけだから、先に説明しないとじゃん。世界観とか」

 そりゃそうだ、むしろ何も言わずに相手が理解してたら怖い。無言でツッコミを入れておく。口に出したらまたわぁわぁと煩くなるから、こういう時はツッコミを入れないで聞いているだけで良い。相槌も返ってこない、相手が聞いているかも分からないで吐く言葉は独り言に分類分けされるんじゃないか、と思うがあいつは気にしないようだった。こいつって便利な脳内回路してるなぁ。

「だからさ、俺、説明しなくてもいい短編を書くことにしたわ」

 別に短編だから説明要らないとかそういうのは無いんだが。

「こうさぁ、落書きから生まれるちっちゃい創作とかあるじゃんか? それを纏めてさ、一つにするわけ。全部短編がそれぞれ生きてんの。短編集って言うより、短編衆?」

 文字に起こさないと分からない言い換えを言われても困る。ケータイの画面を見ていたが、そろそろ頃合いだろう。ケータイをロックし、ポケットに仕舞って立ち上がる。

「よし、牛丼食いに行くか」

「まじで、行く。チーズ牛丼食べたい」

 二人で教室を出て歩き出す。よし、面倒くさそうな未来は回避だ。久々に牛丼も食べられるし一石二鳥。部活動をする生徒たちの声を聞きながら、階段を降りて昇降口で靴を履き替える。だいぶこのローファーも痛んで来た。でも卒業までもつだろう。一年くらい頑張れ、根性見せろ、俺の靴。

「なぁ、ハルキ」

 名前を呼ばれて、そっちを見る。夕日を背に、こっちを見ているあいつ。逆光の中でもその顔に浮かべる表情が笑みである事は分かった。

「俺、神になるよ」

「神になる前に、人になったらどうだ」

 速攻でその発言を叩き落として、隣を通って外に出る。最近は日も長くなってきた。そろそろ夏か。花粉症がおさまるのはいいが汗をかくのも嫌いだから複雑な気分だ。今この気候がずっと続けば……あぁ、いや、前言撤回。秋が良いです。だって色々美味しいし。

「ちょっと待ってハルキ、俺まだ人じゃなかったの?!」

 慌てながら言ってくる頭を軽く小突いといた。

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