ハーフガイア
「原子君、頼まれていたマップはできたかな?」
「はい、今できました。テストも終了しています。」
そう言いながら原子はデータを社内ネットで転送する。
「……えっと、このマップは……。」
そこにはやや広めな、しかしながらきちんとしたマップが作られていた。
「はい、全自動で作りました!!」
原子はニコニコしながらそう答えた。
「…………。」
広大ながらも売りが見えてこないそのマップを見ながら、彼は頭を抱えた。
<ニュー・リアル>は確かにしっかりした土台だったし、山吹原子は優れたプログラマーだった。
しかしながら、彼女には「人を楽しませる」という発想がすっぽり抜け落ちていたのである。
「ダンジョンに関してはリアル時間において10分でたどりつけるように設定、複数の種族の町村が存在しており、それらがなるべくバラバラな位置に配置されている。
これで問題ありませんよね??」
ニコニコと笑っている原子に担当者は頭を抱えた。
問題は無い……問題は無いがこれでいいのかと頭を抱えた。
「……売り、か。」
ニューヨークの本屋でぼんやりしながら、その男は頭を抱える。
彼はアタルヴァ社社長、アッシュ=マクガーレン。
「…全自動でマップを作ってくれるシステムは凄いんだが、我々が欲しいのはそういうのではないのだよ。」
とはいえ、今の自分達の力でマップを一つ一つ作っていく余裕はない。
彼女に丸投げしては、それこそ<ニュー・リアル>を超える事はできない。
理論ではなく感でアッシュはそう考えていた。
「しかし、アイディアが思いつかん……。」
売りが欲しいが、何をすれば売りになるのかがわからない。
「マップの売りを捨てて、どっかの地図を切り貼りしていけばいいか。」
そう言ってその男は世界地図を手に取り、レジへと向かう。
(待てよ………。)
わざわざ切り貼りする必要はない。現実の地図をそのまま利用して作り出せばいい。
現実世界のコピーを使っていけば、労力はそれほど必要ないし、拡張するにしても一気に拡張できる。
売りとしても面白いものがあるし、現実との連動で面白い事ができるのは間違いない。
そのアイディアを考えれば次々とアイディアが浮かぶ。
現実世界をモチーフにすることで、この場所を地図にしたいというモチベーションが上昇し、また幾つかの案件において情報の共通認識が生まれやすくなったのだ。
ニューヨークの地下鉄や地下水道を地下ダンジョンにすることで、初心者用のダンジョンもある程度の幅を作ることができる。
今見ている風景の上に、更なる世界を載せる。
新しい現実の上に古の物語を上乗せする。
そう、<ニュー・リアル>の上に、新しい世界<エルダー・テイル>を載せる。
そのアイディアを思いつた瞬間に、本屋にあったガイドブックをありったけ購入したのだった。
それと、これは後になってわかるのだが『拡張が非常に楽』という事がわかるのだった。
新しく地図を作る時に、その場所の伝承などを利用できるようになったからだ。
<ニュー・リアル>とのシステムの大半を流用することで、村々に素材運搬のクエストが発生するようになっており、その為に下級素材にもある程度の意義を発生させ続けるようになっており、村々でそのような素材を消費させ続けることで、市場に素材の需要を発生させ続けることで、素材余りを抑えるようにし、その上で幾つかの調整を行う事で、
そして、ゲームタイトルも決定され、ひっそりと発表された。
<エルダー・テイル>と。
<新しい現実(ニュー・リアル)>が<古の物語(エルダー・テイル)>となったその瞬間であった。
そして<古の物語>はいつの日にか新しい現実となり、古き現実は古の物語へとなる。それはその20年を描いた物語である。
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