僕はAIに恋をした。
たけるんば@
第1話
「________この子も、もうもたないでしょう。人として生きられるのは、今日が最後と思っていい。覚悟をお決めください。」
白衣を着た医者が、複雑な表情を浮かべていた。
「この子はもう、人としては生きられないんでしょうか。もう、死んでしまうのでしょうか?先生!どうにかしてください!お願いします!何でもします!どうかこの子を____________」
女性は言葉に詰まっていた。袖を濡らしたその女性は、半ば諦め、絶望したかのごとく、足元から崩れていった。
「………………………………………」
しばらくの間、医者は沈黙を貫いていた。
数分間の後、彼は垂らしていた顔を上げ、表情を変えて言った。
「一つだけ、方法があります。はっきり言って邪道です。法を犯します。成功するかさえも分かりません。手術の存在さえ、ひた隠さなければなりません。本当の意味で、生きるということとは違うかもしれません。それでも良いなら方法があります。」
彼の言葉に、女性は崩れていた精神を立て直し、体を再起させる。
________まるで、一筋の光に縋り付くかのように。
「それは、どんな方法なんですか??何でもいい!希望があるなら教えてください!!!いったい何なんですか??」
彼女の言葉に、医者は顔を引き締めて、徐に口を開く。
「AIを使った、感情の再構築です_______」
________________________
____人工知能が開発されて、はや半世紀が経った。
今やその能力は、人間の仕事の95%を代替できるほどまでに爆発的に発展していった。
現在の最先端技術は、ロボットに感情さえも持たせることが出来るという。
________しかしながら、開発されすぎた人工知能は、次第に自らのの創造主である人間に、背を向けるようになっていった。
そこで、世界の国々は、自らで作り出した技術によって自らが支配されるという愚行を防ぐために、人工知能の開発に歯止めをかける条約を結び、その技術全般を、規制の対象とした。
人工知能、いわば「AI」は、感情という「人間らしさ」までも学習し、自らを人間として、創造主に認められるべく、様々な独自行動を、我々からするところのエラーを起こしていくようになった。
そんな最中、条約による規制も後押しし、世界の常識は、AIを社会の禁忌へと化していった。
________________________
「さて、お前ら。今日から二学年が始まるわけだが、東京から、このクラスに編入生がやってきました。どうぞ、入って。」
担任に促され、一人の少女が教室に入ってきた。クラス中の視線が、彼女の元へと集まる。
「あの、今日からこの八代第二高校に引っ越して来ました、山本夏希といいます。その、引越しできたばかりでまだまだ慣れませんが、宜しくお願いします。な、仲良くしてくれたら嬉しいです。」
平均的な身長で、黒髪長髪の、どこかあどけない少女____山本夏希は、照れを誤魔化す為か、わざとらしく微笑んだ。
「なかなか可愛くないか?んー、でも黒髪か……無いな。なんていうか、時代遅れじゃない?」
一人の男子生徒のつぶやきに、周りの生徒も便乗するかのように同様の発言を繰り返す。
「東京から来たのに、意外と時代の流れに乗ってないわよね。都会から来たくせに、八代よりも田舎臭くって、笑っちゃうよね。」
そう言って、女子生徒までがクスクスと笑い出す。
____グローバル化が進んだ現代において、海外への憧れが一層強まった若者は、こぞって茶髪や金髪、挙句の果てには緑や水色にまで髪を染めるようになった。
初めは時代の流行と軽蔑され、校則等でも規制が入っていたのだが、時代の風潮がリベラルなものへと変化してきたことや、外国への憧れを抱き始めた世代が、社会の中心として世の中を回すように時間が経ったことにより、逆にそれがスタンダードなものへとなってしまった。
編入早々、クラスの生徒から集中砲火を浴びた夏希は、ばつが悪そうに、頭を下げた。
「おいお前ら、編入早々やめてやれ。山本さん、後ろの席が空いているけん、そこ座って。」
「わかりました。すいません……」
そう言って、彼女は半泣きになりながらも、空席になっていた、窓際の、1番後ろ僕の隣の席へと座った。
「…………僕は、黒髪好きだよ。」
そう言って、僕は少しばかりの照れを隠すために、わざとらしくはにかんだ。
「あ、ありがとう……お世辞でも嬉しいよ。そんな事言う人初めてだもん……」
彼女の言葉に、僕は思わず顔を紅めてしまう。
____僕は、実を言うと、この時代の流れはあまり好きではなかった。リベラルな風潮だといわれながらも、昔風の黒髪は時代遅れだといわれからかわれてしまう。
____というよりも、僕は黒髪の方が、清楚な印象を受け、ぶっちゃけタイプなのである。
しかしながら、時代の流れにはどうしても逆らえない僕は、若干ながらも、髪を茶色に染め、周りの批判を交わしてきた。
「でも、凄いよね。こんな時代なのに黒髪って。僕には勇気ないな…ほんと僕も黒髪にしたいんだけど、どうしても勇気が出なくって……」
僕の発言に、彼女は首を横に振った。
「違うの。その、私、どうしても髪を染めるのが怖くって………だから………」
そう言って彼女はうつむいてしまった。
「ほーい、んじゃ、ロングホームルームでも始めるか。まあ、取り敢えずは適当に周りの席のヤツと自己紹介でもしとけ。50分けん、適当にしといてくれ。」
そんな担任の適当な言葉で、僕達のクラスの、最初のホームルームは始まった。
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