六話 お題:老母 縛り:蘊蓄、専門、所業、関税

 古美術商の友人がいる。会う度に美術品に関する蘊蓄を喋りたいだけ喋るため、内心うんざりしているのだが、つきあいの長さと何かにつけて金払いがいいことから縁を切らずにいる。基本国内の骨董品を専門に扱っているのだが、稀に海外の品も取引するという。海外のアンティークで百年以上経った品に関税はかからない、という知識はこの友人から得たものだ。ある時、ふと本物と贋物を見分けるコツなんてあるのかい、と聞くと、友人は、

「あぁ、それはお袋のおかげだな」

 と答えた。詳しい話を聞きたいと私が言うと、

「お袋はなぁ、超能力者なんだよ」

 と冗談にもならないようなことを言い出した。なんでも友人が言うには、彼の母親には触れたものに残された思念を読み取るサイコメトリーと呼ばれる能力があるらしい。それで本物かどうか見分けてもらうのか、と聞くと、

「まぁ、ある意味そうだな、お袋はそれを使う時、苦しむんだよ」

 歴史の古いものほど彼の母親の苦しみ方は強くなるので、苦しむ様子を観察すればそれがどの程度の歴史のあるものかがわかるのだそうだ。

「流石に頑張ってもらいすぎたよなぁ、もう老けに老けて本当の年より三十は上に見えるよ」

 鬼畜の所業だな、と私が正直に言うと、友人は急に神妙な顔になって、

「お前だから話すがね、実はお袋でもなんでもないんだよ、その女」

 詳しいことを聞かないのならエッセンシアを奢ってやる、と言うので真相は今もわかっていない。    

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