一話 お題:転ぶ 縛り:なし

 知人から聞いた話である。知人の家の玄関の三和土(たたき)には、そこを踏むと絶対に転んでしまう箇所があったそうだ。男も女も、大人でも子供でも転んだ。試しに犬や猫を通らせてみたらやはり転んでしまった。流石に気味が悪いなぁ、ということで様々な伝手を頼り、ようやく信用できる、いわゆる霊能者という類の人を見つけたそうである。

「うわ」

 意外なほど若かったその男性は、知人の玄関の三和土を見るなり声を上げた。

「どうしたんですか」

 知人が尋ねると、男性は驚いたような、得心したような声で、

「これのせいかぁ、いやね、穴があいてるんですよ。みんなこの穴に足が入って転ぶんですよ」

 知人には当然穴など見えない。しかし、この人が言っているのだから本当にあいているのだろう、と思ったそうだ。

「ううん、どうしようかなぁ、どうやって塞いだものかなぁ……」

 男性がしゃがんで、穴があいているという場所を覗き込んだ時に、

「あっ」

「あっ」

 男性は体勢を崩して、そこに顔から突っ込んだ。

 男性がどうなったのか聞こうとしたけれども、知人が見たこともないほど顔をクシャクシャにしていたので、とても聞くことはできなかった。

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