第63話 決戦

「バカって言うほうがバカなんだから~」


「なんか負け犬が遠吠えてるわ…華」

「犬に言われちゃおしまいよ…琴音」


 黒くうねる大海原でリヴァイアサンが横たわるだけになったフィールド。

『災厄』に見舞われた海、リヴァイアサンのHPは『1』。

『災厄』を使用後のリヴァイアサンは虫の息なのである。


 黒い海にプカッと何かが浮かんでいる。

「なんだアレ?」

 黒マントが身を乗り出して覗き込む。


「かまくら解除~」

 奈美のターン!?

 ピキッ…ピキキキと崩れた氷のカプセルから、瀕死の雪女とカラーハムスターこと毛玉のナニカが現れる。

「んな?バカな…」

 黒マント顎がカクーンと落ちる音が会場に響いた。

「海水は電気をよく通す~」

 氷のボールを作り、立てこもった雪女と毛玉。

 氷で挟んだワカメを、しっかり引き当てた人魚が海中へ引っ張る。


 人魚は焼き魚に変わったが…氷のかまくらは、内側から幾重にミルフィーユの様に層を形成し続け、なんとか耐えた。

「いけ~!! カラーハムスター」

 パタパタッと泳いで…リヴァイアサンの尻尾に噛みつく毛玉のナニカ。

「リヴァイアサン消滅!!」


 奈美が勝利した瞬間であった。


「あのバカ勝ったわ!!」

「リヴァイアサンをひと噛みで葬ったわ…あの毛玉…」

「カラーハムスターの特性~防御力を無視してダメージを『1』だけ与えることができる~」

「なんか横ピースしてるわ、あの娘…もう三十路なのに」

「色々痛いわ…」


 そんなこんなで決勝戦は明日である。

「決勝進出オメデトー!!」

「やれるっていう気はしてました~」

 奈美が嬉しそうに笑う。

「リヴァイアサンが出た時点で諦めたわよアタシ達は」

 琴音がビールをジョッキで飲み干す。

「うん…まさかの神獣じゃね、こりゃダメだと、ワカメじゃ勝てないと」

 華がエナジードリンクを飲み干す。

「まさかのカードで逆転勝ちするのが主人公ってものなのです~」

「おー」×2

 琴音と華が思わず拍手をする。


「明日は決勝ね…桜と戦うのよ奈美」

「うん」

「桜さんね~強そうよねー」

「うん」

「ヴァンパイアロード対決ね」

「うん」

「勝てるの?奈美」

「勝てるよ~、アテクシ主人公だもん」

 薄い胸を張る奈美。

「アンタが主人公だから…勝てる気がしないのよ…」

 琴音がガクッと肩を落とす。

「奈美!! 桜にワカメじゃ勝てないのよ!!」

「大丈夫だよ~」

「アンタ…くだらないものばっかカード化してたから不安なのよ…」

「なによ~、そのくだらないもので勝ったじゃない~」


 それ言われちゃおしまいの、負け犬2匹。

 もはや、そのくだらないカードを保有する奈美に掛けるしかないのである。

 味噌ラーメンのバターを溶かす配分に一所懸命になっている、この三十路に…。


 一晩明けて、フィールドの向こうの対戦相手、桜さんに手を振る奈美。

 日光に弱い桜さん、ボックスは暗幕に包まれているのだが…。


 そして…決勝の幕が今…あがった。

 双方の希望が一致したのでフィールドは墓地。

「桜はアンデッド系が多いから墓地でいいけど…奈美は墓地で生きるカードあるのかしら?」

 華が首を傾げる。

「華…墓地で生きるって…矛盾した会話よねー」

「そういうことじゃない!! 奈美のカードはビーチグッズ多めよ」

「そうね…パラソルとかサンオイルとか…」

「墓地で有利なカード無いんじゃない?」

「……なんであの娘、墓地を選んだのかしら?」


「桜さんのカード使うんだ~」

 奈美の頭は、それしか考えていなかった。

 だから墓地!!


「先生、いつもお世話になっております」

「いえいえ、その後、お変わりないですか?」

「はい、最近は少しだけ眠れるようになりました」

「そうですか、睡眠薬少し弱めに変えてみましょうか?」


 そんな会話の中、淡々と進められる対戦…。

 墓地に蠢くゾンビ…そして似つかわしくないストライプのビーチパラソル…。


 どうなるのか…決勝戦!!

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