第62話 託されし者

「やっぱりアテクシ主役だったんだわ」

 久しぶりの活躍を期待されている奈美。

 なんだか涙が込み上げてくる。

 最近、扱いが…扱いが…悪い気がするー。


「奈美…とりあえず勝つのよ、アタシ独立したいの」

 琴音が奈美にアイスを差し出す。

「奈美…お財布にお札がもう無いの…勝って、そして買って」

 後方の屋台を指さす華。

「うん、とりあえず決勝に進む」

 不純なというか2人の欲を一身に背負い、今、出陣!!

 アイスを食べながら、壇上へ進む奈美。

 相変わらず変なリズムでヒールが響く。

 カードをセットして、大きく深呼吸する奈美。

「アテクシ!! 奈美こそが主人公でありますからーー!!」

 大きく叫ぶ奈美、そして無い胸を逸らして相手を威嚇するように睨む。

「おぉー、あの娘、いつになく攻撃的よ華」

「うん…イケるのかもね」

「いやでも…いつも根拠のない自信だけは持ってるのよ、あの娘」

「そこが持ち味よ、奈美の人生、シー彼女のライフ人生ノープラン無計画

 ビシッと奈美を指さす華。

 それに気づいた奈美、軽くディスられているとは知らずに拳を華に突き出す。

(アタシ…期待されている)

 人生であまり期待されたことのなかった奈美、まさかの魔界で晴れ舞台である。

(お母さん、アタシ頑張る。そして魔族として半永久的に楽しく暮らします)

 色んな覚悟を薄い胸に詰め込んで今、バトルが始まる。


 奈美の手札…コケ・こんぶ・砂・ビーチパラソル・毛玉のナニカ…引きが悪い。

 サーッと血の気が引く奈美。

 クルッと後ろを振り向く奈美、琴音と華を交互に見ている。

「なんか見てるわよ…琴音…」

「ダメかもしれない…長い付き合いだからわかるの、アレ、困ったときの顔よ」


 とりあえず海のフィールドに砂浜をこしらえた…ソコにパラソルを配置してからの~こんぶを撒いた。

 正面のモニターに立体画像が映し出される。

「あの娘…なにしてるの?華?」

「レジャーね、バカンスを楽しむつもりよ奈美は」

「……言葉が無いわ…」

 奈美の2手…補充されたカードは5枚。コケと毛玉のナニカに加わる、サンオイル・サングラス・ヤシの木・雪女(冬月さん)・吹き矢…。

「来たわ、雪女よ華」

「ダメよ…海岸で雪女って自殺行為よ」

「大丈夫、サンオイルとサングラスがあるわ」

「それで防げるの?」

 華が指さす先…相手の太陽のカード。

 ビーチが真夏に変わる。


 奈美がまた後ろを振り返る。

「華…あの顔…」

「言わなくても解るわ…限界だわ」


 相手が海のフィールドに放りこんできたモンスター…『リヴァイアサン』

「げっ!! あの蛇は…」

「蛇じゃないわ…災厄のリヴァイアサン…5手後にはフィールドごと消え去るわよ琴音…終わったわ」

「まだ…ヴァンパイアロードがいるじゃない、魔神だって」

「太陽が出ている…泳げない魔神…どうするのよ…」

「ガラクタばっかりカード化するから…バカ奈美!!」


「あの蛇覚えてる~カミナリ落とす蛇だ~」

「そうだ…あのときの礼をするぞ」

「あー!! 黒マントの人ー!!」


 引きが悪いまま5手目を迎えた奈美、ヤケクソで毛玉のナニカをフィールドに放つ。

 ポヨポヨ浮いている。

「クスッ可愛い~」


「見て、奈美のバカ笑ってるわよ華」

「あれは…なにも考えてないわね…」


「偶然手に入れたリヴァイアサンで、私は勝つ!!」

「それは出来ないわよ」

 奈美の手に毛玉のナニカ。

 フィールドに表れる毛玉のナニカ、モソモソ動いている。

「あの娘…カラーハムスターみたいの出したわよ…華…」

「……見て…雪女、パラソルの下から出ないわ…琴音」


 そして…津波に雷雨がフィールドを襲う。

 敵味方無関係に殲滅させるリヴァイアサンの特能『災厄』。

 人魚も溺れる海域で唯一存在できる神獣。

「勝った…ざまないね!! ほぉ~!!」

 バカ面ではしゃぐマント。

 ニヤッと笑う奈美。

「バカって言うほうがバカなんだから~」


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