第54話 コレでもいいか…

「ぷはぁ~」

 奈美が顔を上げた。

「どう?いた?華」

「華はいなかった~、けど…人面魚がいた~」

「人面魚?」

 琴音が海中を覗く。

「奈美…アレは人面魚というか…人魚ね、マーメイド」

「じんめんぎょ…マーメイド…似て非なる響きよね~アハハハハハ~」

「そろそろ…本腰いれて探そうかな、ドグラ・マグラ! Go!」

「YES コトネさまー」

 黒い筋肉、ピンクのビキニは海中へ沈んでいった。

「華…溺れてないといいけどね~」

「うん…まぁ…溺れてるという時間は、とっくに過ぎてるけどね」


 結論から言うと、華は溺れてはいなかった。

「琴音のヤツー!!」

 海中で球形のバリアを形成していた…おかげで身動きがとれないのである。

 ほっておけば浮き上がるのだが、それを許さない状況が小さな頭を悩ませていた。

 無数の半漁人の攻撃である。

「なんで、コイツらにココまで嫌われてるのよー」

「まぁ、人魚は人間嫌いだからねー」

「アンタのせいよね」

「いやぁー面目ない玉砕覚悟で飛んでくるとは思わなかった…神風ってやつかい?」

「うるさいんだよ、アンタ誰よ?」

「お前達に、ペットを食われたものだ」

「ペットを食った?で?その飼い主さんが、なんで、アタシのバリアの中で何してんのよ?おかげで浮かび上がらないじゃないのよ!! 出て行きなさいよ」

「キミはアレか?人のペットを食っておいて、あげくに飼い主を人魚に食わせようと言うのか」

「知らないわよ…自分の身は自分で守りなさいよ」

「なんだアレ?」

「あっ?」

 黒マントの飼い主さんが指さす方から、黒い塊が近づいてくる。

 ガボボォボ……。

 海中で何事か叫びながら近づいてくる黒い魔神…。

 ガシッと球形のバリアを両手でホールドする。

「メッチャ人魚に噛みつかれてるけど…平気みたいね…」

 まるで魚眼レンズのように映る魔神ドグラ・マグラ、海中でも白い歯を出して笑っている。

 魔神界でも歯が命なのだろうか…暗い海で不自然なまでに白い歯が際立つ。

 何匹もの人魚に噛みつかれながら、魔神ドグラ・マグラは、大きく振りかぶって海面めがけて放り投げた。

 理屈抜きのパワーの前には水圧とか水の抵抗とか関係ないんだな…と華は思った。

 自らのバリアの中で本日2度目となる強烈なGと戦いながら…。


 ボシューン!!

 海面から水柱が噴き上がりキラキラと輝く綺麗な球体が空に舞う。

「なに?…リヴァイアタン?」

「あ~、華だね~」

「あの娘、どこまで飛んでくつもりかしら…着水地点まで漕ぐわよ奈美」

「う~ん…自分で来れないのかな~」

「あのまま落ちて、また沈んだら面倒くさいでしょ」

「シャボン玉みたいだし~浮かぶんじゃないか…あっダメだ…ゆっくり沈んでく~」

「だから急ぐの!!」

「アタシ…最速の方法知ってるんだ、琴音がオールを漕いで、ドグラ・マグラがバタ足するの」

「アンタ何するの?」

「…出来るだけ力を抜いて、邪魔にならないようにする~」


 奈美は正しかった…だが琴音は納得していなかった。


 とりあえず、華は回収したものの…この黒マントは誰なんだ?

「気絶してるね~」

「華、コレ誰?」

「なんか、ペットを食われて、人魚に食われかけてとかなんとか…」

「アンタ、変なモノばっか拾ってくんじゃないわよ」

「HAHAHAHAHA」

 ドグラ・マグラが身体に喰いついている人魚をブチッ…ブチッと引っぺがしている。

「あ~人魚、えいっ!」

 奈美が人魚のデータをカードに読みこませている。

「リヴァイアタンより大分格下だけど…水系は必要よね」

「さて…カードは揃ってきたわね…」

「そうね」

「問題は、どうやって帰るか?ね」


 HAHAHAHAHAHAHA!! はぁ~。

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