アテクシ カウンセラーでございます。

桜雪

人外カウンセラー編

第1話 人外カウンセラー

 セクハラの巣窟…総合病院を退職した……。

 意地で開業したカウンセラー(女)、それが私です。

 後悔?してませんよ。

 ただ貯金が無くなって、経営がかんばしくない以外は。


「で…奈美なみ、大丈夫なの?」

「うん、まぁこれからだよ、1回来院してもらえば、ある程度、安定客じゃない」

「そんな考え方だから、患者来ないんだよ」

(うっ!そのとおり……かも……)

 友人の客観的なアドバイスを真摯しんしに受け止める。

(アタシよりコイツの方がカウンセラーに向いてそう)


「で、今日も患者0なんだ?」

「違うわよ!今日は1人予約が入ってるの」

「はっ?これから?今18:00だよ」

「うん…なんか夜しか来れないんだって…」

隙間産業すきまさんぎょうだね~」

「そうよ!他所よそがやらないことをするの!そうでなきゃ…お金なんて入ってこないのよ…解る?ねぇOLのアンタに解る?」


 そんなこんなで、自宅兼診療所に戻り、患者を待つ。

(夜のカウンセリング…なんか風俗っぽいな~、女医が責めます、癒します、みたいな♪)


 ピンポーン♪

「予約した、さくらです」

「お待ちしておりました~どうぞ」


「で…どのようなプレイじゃなくて、どうされました?」

「ええ、もう長いこと生きる気力が無くて…食欲も無く、私はなんのために生きてるのか……暗い部屋で考えるだけの毎日、外出も何年ぶりだろう?街というか、人も変わったな~と思いましたよ」

(あ~、このパターンね、はいはい)

「まずは、簡単な質問に答えてもらいましょうか?」

「はい、いいですよ」

御自身さくらさんの性格は、外交的ですか?内向的ですか?」

「どちらかと言えば…内向的です」

「家族仲はどうですか?」

「だいぶ前に死別してます、もうずっと独りで生きてます」

「子供の頃に苛められた経験などありますか?」

「とくにはありません」

(なんだろう?質問してるとの『S』が鎌首もたげてくるようだわーホホホホホ)

「縛られたい願望はありますか?」

「はっ?」

「いえ失礼…忘れてください」


 ………………♪♪………………

「なるほど、体力や腕力には自信はあるが、内向的な性格ゆえに、かえってソレがうとましいと…他人をキズ付けるのが怖くて、ついつい引きこもってしまう…あっ、さくらさん、今更ですが…カルテ作りますので、記入お願いします。書いてる間に、紅茶でもいれます」

「あっ、お構いなく…そういうの飲みませんので…」

「遠慮なさらずに、アタシ紅茶嫌いな人、嫌いですよ」

「強制なんですね」


 ………………♪♪………………

「なるほど…現在80歳になりますか~」

「見た目は若いと言われます」

「そうでしょうね~、20歳くらいに見えます」

「噛まれたときが、そんな頃でしたから」

「美容整形を受けられたことは?」

「いや、ありません…身体にメスとか怖いです」


「あくまで吸血鬼だとおっしゃるわけですね」

「ええ、まぁ、あんまり信じてもらえてないのは顔と空気で解ります…慣れてます」

「顔に出てましたか?すいません…嘘付けない性格なんです」

「解ります…不信感が漏れてます…溢れ出てますよね」

「ホントにすいません」


「まぁ、診断結果だけ申し上げれば、『うつ』ということになるんですが…」

「そうですか…現代病ですね…そういう時代なんでしょうか?」

「昭和とは違いますよ、平成ですから」

「『うつ』というのは、治療に投薬が必要なんでしょうか?」

「そうですね…一般的には投薬で、食欲不振や不眠を軽減しながら少しずつ回復させていくんですが…吸血鬼って薬効くのかどうか…」

「はぁ、私、病気したことないんですよ、死んでるみたいなもんですから」

「そうでしょうね~、身体は元気っていうかね~、まぁ『うつ』ってそういう症状を訴える人もいますからね、それ自体は珍しくないですよ」

「薬は…効果なさそうな気がするんですよね」

「そうですね、心の病って言いますから!病は気からですよ、さくらさん」

「ありがとうございます」

「いえいえ、参考までになんですが~えいっ!」

 奈美なみは指で十字架をつくり、さくらの前に突き出した。

「あっ!いえ大丈夫です…私クリスチャンじゃないです」

「えっ?そうなんですか?ニンニクとかは?」

「個人的には食えなくはないというレベルです…主食は血液ですから」

「そうなんですか?色々言われてるじゃないですか?流れる水をまたげないとか、招かれないと家に入れないとか」

「どこにも行けないし、買い物もできないし…そんなことないですよ、だいたい、そんな弱点だらけじゃないですか」

「そうですよね、不死の王のイメージ無いですよね~」


 ………………♪♪………………

「今日は遅い時間にありがとうございました」

「いえいえ、しょうがないですよ、体質ですもん」

「また来週、来ますね」

「お待ちしてます、しばらくは投与ではなく、カウンセリングで様子みましょうよ、ねっ」

「そうですね、とりあえず…散歩とか天気のいい夜に歩いてみます」

「あっ!日に当たらないと『うつ』になりやすいんですよ♪」

「だからかな~、かれこれ60年日に当たってませんから」

「それですよ~、日光浴とかしてみたらいかがですか?」

「だから!灰になるんです!」

「あっ!そうでしたね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る