1.桐木門について


春の風


 小さな田舎の寺である。

要黐と沈丁花の生垣を過ぎて、

やけに真新しい山門をくぐると、右手にはちいさな池がある。

左手は大きなソテツが植えられている。

その向こうの建物はかつて経蔵として使われていたが、

今では“菩薩堂”などと呼ばれている。

まっすぐ進めば本堂である。

三人の僧がこの寺を管理している。

さほど大きくもない寺に僧侶が三人も置かれるのには理由がある。


 ひとつは“菩薩堂”なる仏堂に安置される珍しいもののせいである。

この辺鄙な寺にもたびたび遠くからの参拝者があるのは

これによるところが大きい。

大きさ一・五メートルほどの小さな木乃伊である。

右手はひじから先が欠損していて、

歯を剥き出し苦しげに体を捻っている。

さらに損傷の激しい小袖と思しき着物を着せられている。

だが、奇怪なのは、顔面に目と鼻がないことである。

額から口元までのっぺりと干からびた皮膚が覆い、

痕跡すらも見当たらない。

耳と口だけしかないのである。

寺ではこれを“菩薩”の使いとして祀っている。


 そして、もうひとつは山門の建て方にある。

寺の門を桐の木で建てるのである。

衝撃に弱い桐材は屋外には使われない。

だが、頑なにこの門を桐材で建てるのである。

大工もこのことは承知しており、

本柱と控柱には特製の補強がなされている。

本来は使われないような木材を使えば、

当然門自体が傷んでしまう。

都度建てかえなければならないから、この寺の門は

いつでも真新しいのである。


だから、三人の僧侶は“菩薩堂”の管理と、

桐木門の建替えと維持のために必要なのである。



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たいまつは消えています。


上手から人物が中央へむかいます。

台詞を語り終わると、上手から三人が中央へ向かいます。


中央に着くととその場に着座しうつむきます。

頃合を見て起立し、下手へ向かいます。


舞台の明かりが消えます。

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