思い出読みの憶絵さん/著:吉田しく

富士見L文庫

プロローグ 思い出


「作るのに、何も残らないもの、なーんだ?」

 そんなクイズを、小学生の頃に出された覚えがある。

 確か道徳の時間に、先生がクイズの本を持ってきて出題したのだ。

 答えは『思い出』。

 だが、先生はその答えを発表した後、少し寂しそうな表情で続けた。

「確かに、思い出って目に見えないし、思い出すことしかできないよね。でもね、先生は、きっと、心の中にずっと残り続けて、撮った写真とか、お土産とかを見るたびに思い出す、とっても大切なものだと思うんだ。だから、何も残らない、ってのは、違うんじゃないかな」

 昔は、先生が言っていた意味が良く分からなかったが、今なら分かる気がする。

『あなたの思い出、お見せください』

 そう書かれた看板の前に立ち、昔の出来事を想う。

 きっと、この店で働いていなければ、思い出すこともなかっただろう、懐かしい記憶だ。

 道具に込められた過去を見て、想いを紐解いていく思い出読み。

 不思議な、しかしいたって単純な力。

 だが、それで救われた人間がいることを俺は知っている。

 そして何よりも、俺自身が救われた一人でもある。

 古物屋『橿原』に住む、思い出を読む店員。

 元同級生だった彼女と再会したのは、俺が高校を卒業してから一か月程のことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る