ほどける



世界は重なった網目だから

いるだけで深くひずむ

わたしたちはその跡を

存在と呼んでいる

ずぶずぶと足が沈む 足跡が残る

ずっと一所にいれば穴が開く

だからみんななんとなく

歩き回ってみるのだ

ここは際限がないくらい広い

いつかには必ず果てがあって

縁に足先が触れたとき

否応もなく底へと落ちて行ってしまう

あてなく征く人々の足跡

これを過去と呼ぶ

そして残した存在の跡

その道程が描いたものを人生と呼ぶ

世界は重なった網目だから

下には無数の過去がいる

時が進むごとに上へ上へと

重なってゆく

落ちて、おちてゆく

見上げれば繭のようだ

指先がほどけてゆく

わたしの網目はきっとだれかだった

白い砂が降る

一粒一粒のだれかとわたし

踏みしめるたび交じり合う

最期の一つまみが風に吹かれて

わたしのなかみも確かにほどけ

いのちがそこにあるばかり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る