最終話 祈りの花

アンの体から、急速に熱が消えていく。

彼女の口付で花は咲いた。

あとは、私の本当に愛する人にこの花を摘んでもらえばいい。

そうすれば呪いは解ける。

愛される必要がないんだ。簡単なことのはずだ。


胸が引き裂かれたように痛い。

涙が止まらない。

彼女の名前を何度も呼ぶが、彼女は起きなかった。

叫びすぎて喉がヒリヒリする。

異教の神でもいい、悪魔でもいい。

誰か彼女を助けてくれ。

そう願った。

もう動かない彼女を抱きしめながら私は泣きバンシーのように声をあげて泣き続ける。



「私は…私は…呪いなんて解けなくていい…。

この醜い姿で生き続けてもかまわないから…

アンと、もっと一緒の時を過ごしたい…

愛しているんだ…この花を摘むのは…アンじゃなきゃダメなんだ…」


そう叫んだ瞬間、目の前がまばゆく光った。


アンの体は消え失せ、いつの間にか薄緑色の髪の毛の少女が佇んでいた。

それはどことなく、出会ったころのアンにとてもよく似ていた。



「こんにちは、素敵な植木鉢頭さん」


アンと初めて出会ったときに、彼女に言われた台詞。

目の前のアンに似た少女は微笑んでいる。

これは幻だろうか。


「私と…呪われたままのこの醜い姿の私とこれからも一緒にいてくれるのか?」


気が付くと私はそう言っていた。

彼女は私を抱きしめると、いつかしたみたいにこちらを見上げながらいたずらっぽく微笑んだ。


「どうしてそんなことを聞くの?

あなたのその姿がとても素敵だったから私はあなたを好きになったのよ」


抱きしめられた感触で、やっとこれは幻なんかじゃないと気が付く。

驚く私を見ながらアンは、私の頭に手を伸ばす。

伸ばした手を元に戻したアンは、手に持った彼女の髪色と同じ花弁の小さなかわいらしい花を見せてくれた。



「あなたに咲いているお花、私の名前と同じだわ、アングレカム…本当に御伽噺みたいな結末ね」

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