魔法使いを知りませんか?
にもの工房
プロローグ
カリギュリア王国首都の外れ。 白く雪に覆われる冬の畑たちに囲まれ、二階建ての家がぽつりとある。 その家は木造ながら造りはしっかりとしており、長く年を重ねたであろうその外観でさえ、未だ朽ちることを感じさせはしない。
付近にはこの家と荒れた城以外に目につくものはなく、年を重ねた建造物はただしんしんと雪の降るところに佇んでいる。
無音の雪が降る中、目覚まし時計の音が鳴る。 家の中、女性がベッドの上で目を覚ます。
「またこの夢か……」
青いパジャマ姿の彼女は身体から布団を退け、枕元に置いてあるメガネを取り、かける。
燻んだ青く艶やかな髪は腰に届くほどあり、それでいて寝癖はついていない。
たとえ本人が自身を美人であると称したとて否定の余地は無いその整った顔立ちと、実りありながらすらりと伸びた肢体は作り物とも思えるほどだ。
時計は午前の四時を指す。 大抵の者はまだ眠っているだろう。
「さっむさむっ……」
ベッドから降りた彼女は廊下を走り一階のリビングまで階段を駆け下りる。
と、丁度郵便が届いたらしく、ドアに付随されたポストに郵便物が落ちる音がした。
音を聞いた彼女はそれを取りに玄関へ向かう。
スリッパを履いていたため、足だけは暖かだ。
ポストには薄く黒い封書が一通。 差出人の名にあたる箇所には『カリギュリア王国陸軍』の紋章。 宛先には、住所と合わせて『バーンシュタイン一等魔導陸佐』と記されていた。
バーンシュタインは何処からともなく取り出したペーパーナイフで封を切る。 中には二つに折りたたまれた紙が二枚、入っていた。
それを器用に取り出し、手紙を読み進めながらやかんを火にかけ、朝食の支度をしていく。
小さな文字でつらつらと綴られるその形式的な文を読み進めながら、めんどくさ、と言葉を放った。
もそもそと口に突っ込んだ朝食を早々にコーヒーで流し込んでしまうと、軍からの手紙をほっぽり投げてしまって席を立つ。
手紙ははらはらと舞い、机に落ちた。
のそのそと二階に上がった彼女は、クローゼットより全く色のあせていない士官の着用する紺色の軍服を取り出した。
雪の降る通り、暖かくはなってくれないので、ストッキングと合わせてそれを着る。
「す、少し太ったか……?」
軍用スカートには苦戦させられたが、なんとかそれらを身につけた。
そうしてから、机より財布や小物を取り、多く備えられたポケットにしまい込む。
「おっと、いけないいけない」
壁にかかる額入り写真の背面から小さい鍵を取り出すと、机に向かい、鍵を開け、引き出しを開ける。
雑多とした引き出しから一丁の拳銃を取り出し、腰の後部にあるホルスターにさした。
最後に士官用の軍帽を被り、姿見に全身を映す。
「よし」
身なりを確認すると、彼女はまだ日の登らない街へと足を進めた。
彼女の読んでいた『手紙』は、何故か少量の灰になっていた。
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