もっとあばれて

白石 ゆい

第1話

なんでも欲しくなる


昔からそうだった


友達の服、小物、好きな人、彼氏、

どうしても欲しくなる


嫌な人間だって事は理解してる

それでも辞められない


友達の好きな人を落とした瞬間

私は友達よりも上にいるんだと実感する

友達が手に入れられない物を手に入れた瞬間が

気持ちよくて仕方がない


いつも簡単に手に入った

周りよりは裕福だと思う私の家は

ちょっとねだれば何でも買ってもらえた

ブランド物のバッグ、服、靴


笑顔を振りまいて、ちょっと優しくするだけでみんな落ちる


影では私の悪口を言っている奴らも

表では私にベッタリ


本物だろうが偽物の笑顔だろうが

私の周りに人がいる事には変わりない


そんな人生に少し飽きてきて

少し刺激が欲しかった

いつもと違うものを手にしてみたかった

皆んなが欲しがるものじゃなくて

誰も目に止めないような物


そんな時ふと目に留まったのが彼だった


周りに誰も寄せ付けないオーラを放ち

1人で自分の席から外を見ている


明らかに地味な感じの彼は

私と仲のいい男子達とは全く違う


私は、関わったことの無いタイプの彼を少し観察してみる事にした


足が長いせいか少し短い制服のズボン

真っ直ぐな背筋

意外とある腕の筋肉

よく見ると整った顔

たまに見せる人生諦めた大人の様な目


どれだけ観察しても

彼が誰かと話す事は一度も無かった


彼の声を聞いてみたい


今の私にはそれしか無くて

自分でも気づかないうちに彼の机の前まで来ていた


ずっと外を見つめている横顔


「ねぇ」


私が声をかけると顔はそのまま

視線だけを私に向ける


目が合う

いったい何秒たっただろう

どれだけ瞬きをしていないだろう

だんだん目が限界になってきて

自然と1回瞬きをする


「何見てたの?」


私がそう聞くと

彼は視線を外に戻し

「空」と一言言った


低すぎず高くもない

丁度いい感じの声


すごく良い

馬鹿みたいに騒いでる奴らとは違う

落ち着いた感じ


「そうなんだ!」チラッと彼の名札を見る

真中まなかくん」


外を見てる彼の顔にグイッと顔を近づけて

彼を真っ直ぐ見つめて名前を呼ぶ


すると彼は椅子にもたれ

今度は顔ごとこちらに向けた


「なに」


「呼んでみただけ」

悪戯っぽく微笑んで見る

この笑顔でどれだけの男を落としてきたことか


女子と関わりの無い彼なら尚更

落ちる事間違いないだろう


すると彼ふっと笑って

「つまんねー顔だな」


低い声でそう言った


「っ!」


彼のその私を嘲笑うかの様な表情にゾクッとした


私は何も言わず自分の席に戻った


私は彼の事を甘く見すぎていたのかもしれない


彼はそんな簡単に落ちる男では無い

だからこそ余計に彼を手に入れたくなった


私の中でメラメラと燃える炎

この炎が消えるのは彼が私に落ちた時

彼は絶対に落ちる

私には自信しか無かった


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