夜空が泣いた日

くると

終わりの空

 ぽつり、ぽつりと頬を濡らす雨。


 泣く事の出来ない俺に代わって、空が泣いている。

 真っ暗な空から、見えないあめが落ちてくる。


 あぁ、ああ。

 ごめん。


 いくら謝っても君に届かないなんて、分かりきった事だ。


 墓石を黒く染めていく雨。

 まるで、夜空と君が一緒に泣いているみたいだ。


 胸に込み上げて来る感情を言葉にしたい――あぁ駄目だ。俺は、おれは……。



 もう一度、一度だけ、君の笑顔が見たい……。


 君を引き止める事が出来なかった。

 あの時、君を止めていたら――こんな事にはならなかったのかな。


 俺は、君の口癖を覚えているんだ。


『過ぎた過去は変えられない。だからこそ、今を全力で生きるしかないんだよ』


 笑顔でいつも言っていたんだ。

 俺は、君が泣いてる姿を見た事がないよ。


 辛い事があっても、自分の中で終わらせて、俺にその辛さを見せてくれなかった。



 その強さが――好きでした。

 その孤高が――嫌いでした。



 君の中には俺がいなくて、俺の中には君がいた。


 もっと、もっともっと……話したかった。

 君と悲しさを、嬉しさを――――共有したかった。


 ……でも、ああ、どうしてだろう。こんなに辛くて悲しくて寂しいのに、


 あぁ君の笑顔が浮かんで、俺も笑ってしまうんだ。

 引き攣った笑顔かもしれない、けど――



 ――――辛いよ。泣けないって、こんなにも辛い事だったんだね。



 今更になって、君の弱さが分かった気がするよ。


 あぁ、空が泣いている。終わってしまった空が泣いているんだ。


 どこまでも暗い空から、涙が落ちてくる。

 

 ……君は、俺の代わりに泣いてくれるんだね。


 雨に濡れ、悲しげに黒く染まった墓石――一瞬、彼女が笑った気がした。



 ありがとう。

 もう二度と会えない、君へ。

 一つだけ伝えてない事があったんだ。



 好きだったよ。



 墓石から背を向ける。

 俺はちゃんと、笑えているかな。


 ぽつぽつと降り注ぐ涙に隠れて、俺の頬を熱いモノが伝う。

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