焼き鳥 キノコホイル焼き

10月末日、数年前までは海外のなんだかよくわからないお祭りの一つだったハロウィンなるイベントは、この甲信越だか北関東だか信越だか東北だかわからない県の政令指定都市にも届いて、、、いるのか?

ちらほらとコスプレをして歩いている人達はいるが、そもそもの人口密度の少なさからなんだか浮いて見える。その上、あれはどう見ても夜の蝶、他にぽつぽつと居るのは中途半端なコスプレと言うのかわからないような物、新潟県にハロウィンが浸透するには時間がかかりそうだ。


なんて思ったが、実は昼間の間にコスプレパレードなんかやってたらしい。僕は土曜の昼間は仕事中なのだ。むしろ世の中で土日休みの人々と言うのはどれほどいるのか。少なくとも友人達で土日に休んでいる人は一人もいないぞ?地銀に努めている友人でさえ、休日は営業に出ている。一体誰に向けた土日なのだと一人憤ってみる。


そんな夜の新潟駅はさすが給料日後、かつハロウィンと言う事もあってかどこの居酒屋も人だらけ。僕と言えばすでに2店舗からすでに満席ですと入店を断られて意気消沈中だった。

もうラーメンでも食べて寝ようかな、、、なんて思いながら入口からまた一つ居酒屋の様子を覗う。

むむ、随分空いているように見える。もしかしてもう閉まるとか?と言うか同じ店だと思うのだが入口が二つある。一体どちらから入ればいいのか、片方の入口には何人か客が入っているが

ここも断られたらいよいよ帰りたくなってくるぞ。

悩んだ結果、外から誰も居ないように見える方の入口を意を決して年季の入った引き戸をがらがらと開ける。

「一人だけど」


中に入ると右手がカウンター席になっていて、右は座敷にテーブルが4つ程。そのテーブルの一つにグループが居るのみで、ずいぶんと寂しい印象ではある。だけど今日の駅前の喧騒に対してこの雰囲気は僕好み。そしてカウンターを拭いているお姉さんが僕に気付き、どうぞと案内してくれたので、遠慮なく全席空いているカウンターのど真ん中に座った。いや、真ん中に座るつもりはなかったのだけど、ちょうどその辺りを拭いていたお姉さんが促してきたものだからついつい、、、まあ夜の9時過ぎ、この客の入りなら問題ないんじゃない?

さて何を頼もうかとメニューが立ててあるスタンドに手をやると地味な品目だけ書かれたメニューと別にきらびやかにラミネートされたドリンクメニューがある。何でもジムビームハイボールが最初の一杯だけ100円で呑めるらしい。100円!!


「すいませんとりあえずこのジムビームハイボールで」

飲み物を注文した僕はそこからつまみを物色し始める。

注文した時になんだか少し店員さんのテンションが低かった

ような気がするのだが、気のせいだろうか。やっぱり100円だと利益でないのかな。けどこういうのってウイスキー会社からお金が出てるんじゃないのかな。そんな事を思っていると別の店員さんがやってきて僕に話しかけてきた。

「失礼します、よろしければ何か摘まむ物お持ちしましょうか?」


おお、しんみりした雰囲気のお店の割にぐいぐい来るのね。不意を突かれた僕は唱えるように口にする。


「ああ、ええと、ヤキトリモリアワセ?」


「はい、モリアワセというのは無いので、何本かずつ組み合わせてお持ちしましょうか?」


それを盛り合わせって言うんじゃあないのか?

続いて片言で返事をする僕。

「ええオネガイシマス」


「そうしましたら何本ぐらいにしましょう」


「えええとおおおお6本?」


「味はしおたれ?」

矢継ぎ早の質問されている中で幾分か心を落ち着かせてようやくまともに返事をする僕。

「あータレでお願いします」


「かしこまりましたそれでは焼き鳥6本タレで受け賜わりました」


そうして店員さんが下がっていくと、入れ替わりで、ジムビームハイボールとお通しが届いた。お通しはコールスローと言うのだろうか。キャベツやベーコンに白いソースがかかった物が小鉢でやってきた。

散々歩いてやっとありついた飲み物を僕は間もなく口へと運んだ。

新潟の酒呑み話なのに、僕が頼む物と来たらビールだのシードルだのハイボールだので見ている人からすればなんだこいつはと思われるかもしれない。だけど今日はこの後日本酒を頼むから楽しみにしてほしい。全国的に有名な銘柄だ。


随分濃いめに作られたジムビームハイボールを煽りながら僕はタバコに火を付ける。店内の奥、カウンターの脇の壁に置かれたテレビに目をやると、今大盛り上がりを見せる広島と日ハムの日本シリーズをやっていた。一昨日日ハムが大手をかけたのは知っている、見ると4対4の同点、広島が負ければ日ハムの優勝、広島が勝てば逆大手と言う場面だったのだが、、、結果は皆さん知っているだろう。焼き鳥が届くまでドキドキしながら見ていたのだが、現実と言う物はかくもあっさりと終わってしまう物なのか。


今更だがこの日の僕は随分とお腹が空いていた。ここまで駅前が混んでいなければ焼肉屋でも行こうかと思っていたぐらいだ。そんな飢える獣の前にいよいよ肉が届いたものだから、僕はわき目も振らずに喰い付いた。盛り合わせの内容はレバーに皮が2本、つくねと、色が赤いつくね、あと一つはハツっぽかったのだが、、、正直自信はない。こりこりとした触感、小さな羽根つき餃子のような見た目であった。やっぱりハツかな?お店で聞いておけばよかった。

焼き鳥の盛り合わせを頼む上で何が出てきても文句は言えないと思う。だけどもわがままを言うなら正肉、いわゆる肉そのもの的な物が一つはほしかった。内臓系で攻めすぎじゃない?内臓が好きそうな顔してたのかな?いやおいしかったけど。特に皮、2本持ってきた理由も分かる。これはもう一本食べたくなる人がたくさんいるのだろう。

コーラの空き瓶のような串入れにポイポイ串を突っ込んでいく。気が付けば6本あった焼き鳥も残り二つ程。何か追加するかとメニューを眺める。刺身か、、、おいしそうだけどなんだか鶏肉に刺身って親戚の集まりにでもやってきたような気がする。いいとこどりしすぎてまとまりがないと言うか。だったら何を頼めばいいんだかっこつけ野郎!なんて声が聞こえてきそうだ。僕は散々迷いながらも結局はまとまりだの、店の雰囲気だのそういった要素は完全に無視して、今食べたいと思った物を素直に注文した。もちろん飲み物のお代わりも一緒に。


「すいませんキノコの三種ホイル焼きに八海山の原酒一合で」


地味である。だけどきのこが食べたかったんだ僕は。そしてこの組み合わせにはある共通点もある。

新潟と言えばキノコ業界で2大トップ企業の一つ、雪国まいたけがある。この雪国まいたけの社長が苦心の末にそれまで大量生産ができず高級品だったまいたけの大量生産に成功したおかげでいつでもおいしく舞茸を食べる事ができるようになったのだ。まあこの居酒屋のきのこが雪国まいたけ産かどうかは分からないけど。

そして八海山。新潟県の日本酒と言えば八海山と言っても過言ではないんじゃないか?そんな八海山の酒蔵は新潟県南魚沼市に存在する。

ものすごい田舎で田んぼと山とジャスコしかないような場所にバカみたいに立派な建物を見つけたらそれが八海山酒造の酒蔵だ。もしくは雪国まいたけの本社ビルである。


僕はそれほど日本酒をたくさん飲んでいる訳ではない。よって日本酒の美味さと言う物を相対的に表現するには少し不安が残る。けれどもこの八海山。そんなバカ舌にこれが絶対的にうまいって事なんだぜとしっかり教えてくれるそんな酒だ。それの原酒である。原酒ってなんだろう?

調べたらもろみを絞ったものだそう。もろみって、、、etc

簡単に言えば普通よりアルコール度の高い日本酒だ。

正直ジムビームハイボールが少し効いてきていた僕に更に強力な酒を加える事によって起きたこの後の醜態はとてもここには書き出せない。



ともかく八海山にキノコの三種ホイル焼きが届いた。

三種類のきのこはシメジにまいたけ、そしてエリンギでホイルを破った瞬間に熱い蒸気と共にふわりと濃厚なバターの香りが鼻腔を攻め立てる。焼き鳥に食らいついた時に負けず劣らずの勢いでガンガンと口にキノコを運んで行く。口いっぱいにキノコを頬張り、ぐにぐにとした触感を味わいながらキノコの香りとバターの濃厚さを味わう。そうしてそれらを高いアルコール度の日本酒でグイッ胃に流し込む。先ほどまでの芳香な香りとは別種類の、洗練された、、、なんだか僕にはこういう表現は似合わない気がする。美味い、それだけでいいじゃないか。


ささっと食事を済ませてお勘定。日本シリーズの様子の確認もそこそこに店を後にする。さてと、まだまだ夜は長い。少しは周りの店も空き始めただろうか。10月も末に入り空気がずいぶんとしばれる中、僕は次の居場所を求めて歩き出す。

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