時が戻ったならどうしたい?
杉崎 三泥
タイムスリップ
大人になって、昔を思い出す時がある人は恐らく少なくないだろう。
友達と集まったり、引っ越しをしたりするときに荷物整理のついでに卒業アルバムを開いて、
「こんなことあったなぁ」
「あいつ、どうしてるかなぁ」
などなど、言ったりするのはお約束だろう。
大学を卒業して私も、この春に就職が決まったので引っ越しをすることになった。その時に高校のアルバムを見つけて、休憩ついでにパラパラとめくっていた。
最初に行事で何があったか、いろいろ見て思い出したりしていた。高校ともなると体育祭では結構暑苦しいレベルでやるし、文化祭なんかはにぎやかで今のことのように思い出せる。本当に楽しかった。
最後に昔の同学年の顔をざっとみていた。仲の良かった悪友もいたし、全く関わることのなかった名前だけの知り合いもいた。その中には見たときに心がもやもやするやつもいた。
悪い意味じゃなくて……ただの初恋相手だった。
彼女とは話すこともよくあった。家が隣同士のいわゆる幼馴染だった。明るいけど静かな子で可憐という感じだった。もし、今告白できるならもちろん今すぐにでもするだろう。
まぁ、お察しの通りこんなことを言うのは、今の彼女に告白などしても無意味だからだ。小説なんかではよくある話。
彼女は卒業式の日に交通事故にあった。
朝の時の話だ。交差点で運送会社のトラックの運転手が居眠りしてて、横断歩道を渡っていた彼女を、それはもうきれいに轢いた。なんでそんなのがわかるかって?
ちょうど目の前で見たから。
一緒に登校することが当たり前で、いつも通りに学校に行っていた。その最後の卒業式が最後の一緒の登校であり、彼女と最後に話した日でもあった。
信号が青になって、
彼女が楽しげに後ろ向きに進みながら、
私と卒業式で何人泣くかな、なんてくだらない話をしていて、
鼻先を左から来たトラックが掠めていって。
怖かったね、なんて風に彼女に話しかけようとしたら、自分の中で時間が止まった。どこにいった?なんてうろたえてね。
そして右を見れば…っていうね。
あの時はほんとにひどい醜態だった。彼女のもとへ行って、彼女の状態を確かめて、ただただ、茫然としていて。人が来たらみっともなく泣いていただけだった。
あの時、こうしていればって何度も自分を責めた。
何度も、死んでしまおうかと考えてしまうほどに沈んでいた。
親の励ましがなければ、今こうして、就職なんてやってなかっただろう。本当に感謝してもしきれない。
それでも、たまに思う。あの時、もしああなることが変わらない現実であったというのなら、せめてその前に彼女に思いを告げたかった、と。
運命、なんてものをわたしは信じたくはないが、過去はどうやったって変えられない。あるのは事実だし、起こったことは必然であり、運命である。
そこに何かを変えられる可能性などこれっぽっちもない。ただできるのは過去を思い出し、振り返り、反省し、未来に生かすだけだ。得るものを得たら、過去に意味はない。
それをわかってて、それでもやはり、自分の失敗を思い出してへこんでいる自分はきっとこれから先も無意味な後悔をする。この後悔は彼女への贖罪だと、勝手に思ってる。本当にただの独りよがりだ。
過去を変えられなくてもいい。ただ、彼女に会いたい。
そんな思考に没頭していた私は自分の手にある卒業アルバムの卒業写真が輝くのに気付かなかった。
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