どりんくうぉーず!

奥多摩 柚希

開封前

「吉永そこでシュート行けたぞー!」

「悪ぃ悪ぃ、次はやるから」

 炎天下。気温は三十度を優に越えてきている今日この頃、俺は部活で外を走り回っていた。暑い。

「ディフェンスー!」

 他の人の声が耳に届く。どうしてそんなに声が出るのか。このクソ暑い中運動させられているという由々しき事態に何とも思わないのか。俺は嫌だね。

 ハンドボールというスポーツは攻守の切りかわりが早く、行ったり来たりするからなお疲れる。サッカーとかラグビーなら余った人突っ立ってるっぽいけど、ハンドボールはそうはいかない。

 だからこそ、余計に疲れるわけで。

 時計が五時半を指す。

「終了ー! ストレッチー」

 顧問の鶴の一声で場が一斉に和む。全員が押し寄せる疲れを感じて日陰に逃げ、持ち寄った飲み物でのどを潤す。

「…………くー! やっぱ疲れた体にはあくふれだな!」

 横で叫んだキャプテンが飲んでいるのは、スポーツドリンクの「AQUA―fresh」通称「あくふれ」。今現在日本を席巻しているヒット商品のひとつだ。疲れた体にしみ渡る、なんともいえない爽快感を与えてくれる。

「よーし、ストレッチしたら解散!」


 六時の下校時刻ギリギリに部室を去ると、高二部員十五人くらいで固まって帰るのが日常。邪魔なこと極まりないが、これも青春の一ページと言えば許してくれるだろう。

 と、目の前に光が。部活帰りの高校生に最大限の誘惑を放つ存在だ。

「……しかたないしかたない」

「そうだな、ここに置いてあるのがいけないんだもんな」

 なんて自分勝手な言い訳をして、財布を取り出す。

 ピッ、ドドドン。プシュッ。

「疲れた体に炭酸があああ!」

「おいうるさいぞお前」

「ええじゃないかええじゃないか」

「口調変わってんぞー」

 と言いつつお互いにコーラを飲み干す。自販機にコーラがあったら買うだろそりゃ。

「はあー、やっぱ炭酸だなー!」

 わいわいがやがや。高校生の生活には欠かせない清涼飲料水。お酒は二十歳になってから。許される最大限の楽しみを全力で味わっている。まさに至高の一時。

 輝く夜空に炭酸が弾ける、と言ったらなんか言い過ぎな気もするけど、今俺は気分がいい。飲み物って素晴らしい。

 

 ――と、思っていた。

 あのお嬢様が俺に近づくまでは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る