第9回「マーダーズ・ロングナイト」
「マーダーズ・ロングナイト」
2021年 アメリカ
監督 ジョナサン・マッケルン
あらすじ……ロサンゼルスで85階立ての超高層ビル、サンアンドレアス・エンパイアプラザが完成する。最新鋭のセキュリティを誇るそのビルには、多くの富豪や金持ちが多数入居し、最上階では出資者や入居者たちを交えた完成記念パーティーが開かれていた。だが、その晩、パーティーで賑わう会場に、ロイ率いる強盗集団が現れ、ビルは占拠されてしまう。ロイはこの日を見計らい、1年以上前から仲間たちと共に計画を立てていたのだ。人質を一箇所に集め、目当ての財産や資産を強奪しようとするロイたち、だが、隙を見計らって数人の人質が逃げ出し、単独行動を取っていたロイの仲間が次々と殺されていく。人質の中に、非番だったロス市警察の刑事と元特殊部隊隊員、凄腕の殺し屋、そして猟奇殺人鬼が紛れ込んでいたのだ!一転してロイたちは狩られる身になってしまう。果たしてロイは無事にこの“仕事”を終わらせられるのか。
[レビュー]
B級ホラー映画の名作「ナイトメアビレッジ」シリーズのジョナサン・マッケルンが放つ、往年のアクション映画を逆手に取った新感覚の「犯人から見たヒーローアクション」ホラー映画。
よくヒーローが現れて敵を倒していくアクション映画がある、孤立無援の状態で一匹狼の男がテロリストや犯罪者を蹴散らしていくという映画だ。その手の映画は無数に作られてきたが、今作はその映画における悪役を主役に置く事で極上のスリルとホラーを堪能できる仕上がりになっている。
主人公のロイは犯罪者であり、普通の映画だったら観客が義憤にかられて敵意を持つような悪役ポジションのキャラだが、彼らの目的はあくまで金のみで、暴力による解決は望まず、人質を脅す事はあれど手を出しはしない。テクニックと経験で無血の完全犯罪を望み、奪い取った金持ちの資産や財産を恵まれない人たちや富豪の手で破滅した人たちに渡し、そして闘病中の娘の医療費にするために強盗を企てる一種の義賊であり、犯罪者側に感情移入が出来る作りになっている。それ故に、彼らの行為を止めようとする者たち=我々が映画で応援するヒーローが敵になってありとあらゆる暴力と死をぶつけてくるというホラーが上手い具合に成り立っている。
場所やシチュエーションもよい。主人公たちが篭城する超高層ビルは完全に閉鎖され、唯一の抜け道は彼らが用意したダストシュートを利用した地下への脱出路。ここを押さえられたら死ぬしか無い。また、ロイの仲間は30人で、武装はあくまで突撃銃か拳銃程度で警察と渡り合える程度にしか戦えないが、相手はプロが4人、しかも全員が対話を拒否しロイたちを殺しにかかり、しかも残り2人は同じ犯罪者だが猟奇殺人鬼が混じっていて抵抗する側も危ない……という結果が予想できないような布陣になっている。
仕掛けられたワナにハマって死ぬ仲間、そして奪われた武器で反撃され命を落とし、さらに不意打ちで殺された挙句に無線ごしで殺害予告され、煽られる主人公の姿は不憫で仕方なく、彼らに抵抗できるほどの力が主人公に無く、正面から対峙したら死ぬしかないという現実が攻防戦をシビアかつスリリングに描いている。
しかし、ロイたちの知恵合戦も中々よい。人質に手を出したら殺される事を知って、あえて彼らと距離を縮めてストックホルム症候群に似た状態を作る。逆にトラップを作ってヒーローたちを迎え撃つ、腕っ節を集めて反撃に転じる、更にはビルの外を包囲するFBIや市警察とも交渉し、いざとなれば計画は失敗しても生き残る為の保険を作る……など。計画を修正しつつ「生還し、なおかつ強盗の目的も達成する」という難題をクリアするために奮闘するロイの姿に思わず応援したくなる。
また、アクション映画のお決まりを踏襲しつつもあえて崩すというギャグも劇中では頻繁に疲労されており、シリアスな物語の中で適度に休ませてくれて清涼剤になっている。また、完全にラストが予想できない脚本や、見せ場が連続する作りなどB級映画ながら隙無く完成された作りになっており、「ナチス・フロム・アビス」の雑なバカ映画を撮ったジョナサン・マッケルンがついに才能を開花させた瞬間でもある。そして、この翌年、満を持して「ナイトメアビレッジ」が公開される事になる。
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