第3回「ローズマリーフロントライン 春の章」

「ローズマリーフロントライン 春の章」

2018年 日本映画

監督 神宮寺守宏


あらすじ……どこにでもいる平凡だが超のつく軍事オタクの高校生のタカシは、ふとした切欠で交通事故に巻き込まれてしまうが、その拍子に現代から異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先は、中世ヨーロッパによく似た剣と魔法の世界、エルランド帝国。姫騎士のリーナの従者として戦場を渡り歩き、持ち前の知識と技術を武器に産業革命を成し遂げようと試みるが……


[レビュー]

 製作当時、日本のティーンエイジャーたちに大人気だったジャンルに「異世界転生モノ」というものが存在した。平凡だったり陰惨な人生を送る主人公が何らかの切欠で現実世界ではなく異世界へと転生し大活躍するという物語だ。小説・漫画・アニメ等で同様の設定を持った作品が乱造されていた。その数多くの作品の中の一つがこれで、原作を映像化し前作「冬の章」と近作「春の章」、そして「夏の章」「秋の章」で完結する全4作のアニメーション映画として作られる予定だった。


 しかし製作中に悲劇が起こる。こうした作品のブームが「異世界ショック」と呼ばれた大炎上事件で一気に盛り下がってしまった。数年続いた看板作品ですら一瞬にして廃れてしまう程のブームが終焉し、この原作シリーズもまた同じ運命を辿り、続きが書かれないまま打ち切りになってしまったのだ。アニメも同じ運命を辿り、8割ほど作った所で続編の計画は立ち消えになってしまう。続ける気満々だった神宮寺監督はスタッフや原作者と相談し、予算とスケジュールを考えた結果、強引に纏めてアニメを終わらせるという最後の手段に走った。


 そうした複雑な経緯を経た結果、当時のオタクたちを絶叫させ絶望させた怪作へと仕上がったのである。原作者も脚本家も監督も「異世界転生モノはもうダメだ」と悟ったのだろう、自らの手で楽しく作品を破壊する方向へ開き直ったのだ。


 原作で人気の出たキャラクターを除き、登場人物の全員が死亡するという開き直りで味方も敵もバンバンと死んでいき、2分間に1人は原作の名前付きキャラが死亡するというバイオレンス映画も真っ青の皆殺しムービーへと変貌を遂げたのだ。


 魔法と剣のファンタジーだったはずなのに、戦車・戦闘機・銃火器と言ったテクノロジーが何の前触れもなく登場、ヒロインが感染病にかかって病死、主人公がラスボスと一緒に自爆、読者から最も人気の高かったサブヒロインだけが生き残り、死体しか残っていない平原をただ1人歩いていくラストは日本のアニメ史に残る衝撃的なラストとして語り継がれている。


 元々、この作品は無敵の主人公が暴れまわる痛快なアクションかつ多種多様な美少女との恋愛を盛り込んだロマンチック・コメディ作品としての趣を盛り込んだ原作だったのだが、それ故に原作ファンからは壮絶に叩かれたという。無理もない話だ。以降、原作者は鳴かず飛ばずでフェードアウトし、神宮寺監督はその後TVアニメを2作ほど監督した後に業界を引退している。


 しかし、それから1年後。何の拍子か、海を飛び越えてアメリカに上陸するや否や、この「春の章」は一転して高評価を受ける。過激な暴力表現と死が盛り込まれたこのダークファンタジーアニメが却って海外ではウケてしまい、ハードコアな層から絶大な支持を得てしまったわけである。以降、アメリカの出版社が原作者と日本の出版者から作品を引継ぎ、原作のダークな続編と劇場アニメ版準拠のOVAシリーズがアメリカで発売されてしまった。何が起こるか分からない世の中なのは今も昔も変わらない。

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