世界を変えるには所詮俺が必要!

夜川 太郎

第1話 プロローグ

「危ねええええええええ」


 危うく大学のセンター試験に遅刻するところだった。

高坂譲こうさかゆずる』と書かれた受験票を握りしめ、俺はただバス停へとひた走る。


「何でこんな重要な日に遅刻するかなああ!俺は!!」


 そうしてバス停が見えた。あとはこの道をまっすぐにひた走り、信号を渡ってしまえば良い!問題はこの信号だ。これが赤になってしまったら、おそらくバスは来てしまうだろう。これを逃したら次は15分後。それでは間に合わない!


 そうしてターボを掛けた瞬間だった。サラリーマン風の眼鏡を掛けた人が自転車に乗って、向かい側からやってくる。

 視線が一緒になる。


「お前がどけよ」

「いやいや、お前がどけよ」


 おそらくは、こんな考えだろう。

 おっさん、俺は人生が掛かっているんだ!今日は妹にも両親にも、もう浪人はするなと言われてやって来ているんだ!どうか、今日くらいは道を譲っても良いんじゃないか!なあ!そうだよなあ!


 おっさんの自転車は一向にどちらかに寄る気配がない。

 ちくしょう!コンマ数秒のロスも俺には許されないが致し方なし!

 俺はそのまま、道路とは逆側の左への横飛びをキメた。


 しかし、それが悪夢だった。

 まさかのおっさんも慌てて避けた方へ対角線上にやって来る。


「あ、やばい」


 その瞬間、おっさんの驚いた顔だけが大きく映った。

 咄嗟に右腕で顔を隠そうとして、右腕に自転車の前輪のゴムのような柔らかさが残った感触を受けた。


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―――――――

―――


 そして、どれくらい時間がたったのだろうか。

 俺は、見知らぬ家で、ベッドに横たわっていた。

 やけにふかふかで、よく目を凝らしてみると見返り美人の様な和風の絵が飾ってある。狩野派による力強さが感じられる日本画だと思った。

 まだ頭痛がする。

 そして気づく。


「ここは……病院ではない……」


「そうだ。ここは病院なんかじゃない。わたしの家だよ」


 そのやや高くも威厳のある声に、戸惑った。

 あのおっさんか……?


 しかし、俺の目の前に立っていたその男は、全く違っていた。

 スーツを着こなし、襟元には金色に輝くバッジを付けていた。若々しい風貌で目元は鋭く、まるで獲物を見つめる鷹のようだ。身長も高く、183から5はあるだろうか。いずれにしても紳士だ、というのが印象だ。


「あ、あの……。あなたは誰ですか」

「それはこっちのセリフなんだが。君は神社で倒れていたところをさっき発見されたのだから」

「は?神社で?」

「ああ。東明神社とうみょうじんじゃの境内でな」

「どこっすか、それ」

「ああ、また……アレか」

「アレ、とは?」

「ふふ。君はこっちの世界に飛ばされてきたんだよ」

「はい?」

「そう。この世界はね、よく並行世界の人間が飛ばされてくるんだ。ほら、パラレルワールドってやつ。これ意味わかるよね?」

「あ、はい……」

「それだよ、それ。何らかの衝撃でね、こっちの世界にやってきちゃう人がいるんだ。5年から10年に一人くらいね。それが君ってわけだ」

「えええええええええ」

「驚くのは無理もないな。何せ、最初はみんなそう混乱するものだ。だが安心してくれ。君の住んでいた世界とはほぼ社会制度に変わりはないさ。多少の差異はあるだろうが、安心してほしい」


「そ。それじゃあ、一つ聞いても良いですか」

「どうぞ?」

「センター試験ってもう始まってますか!」

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