『真の勇者』というものになるべく……
@to-ya819
プロローグ
プロローグ
「なんでそうなったんですか?」
オレは目の前の机に座っている老人――いや、オレが通う学校で一番偉い人である校長にそう尋ねることしか出来なかった。
現在いま、オレは左側には大小様々なトロフィーが並べられているショーケース、右側にはかなり大きな絵、校長の上には大きな額縁に入った歴代校長を務めた人たちが写真並べられている部屋――つまり校長室に居る。
つい先ほど校長に呼ばれ、そして衝撃の発言を聞かされた直後だったため、オレはそう尋ねることしか出来なかったのだ。
「何かおかしなことを言ったかね?」
そんな質問も校長からすえば大した質問ではないかのように、机の上で両肘を付き、左右の手を絡ませている。この様子さえ見れば別段おかしくないと思うが、眼鏡の奥にある瞳は鋭く光っていた。
その瞳で見られたオレはなぜか心が怯え、それ以上の発言は心が制止をかけたのだが、
「もう一度言ってもらえますか? 聞き間違いではないとは思いますが、もう一度これが冗談ではないと確認したいので」
右側にいるオレよりも少し身長の高く、蒼髪ポニーテールをした生徒――ルクス・エーベルハイトがその瞳に屈することなく、先ほどオレたちに言った発言をもう一度頼んだ。
「もう一度か……」
顎から生えている自慢の長いヒゲを触り始めた校長は、少しだけ悩んだような表情を見せたが、
「構わんよ。そういうのは分かっておったしのう」
と、先ほどの鋭い瞳から打って変わり、優しい目に変わり、
「君たち三人は我が校の勇者になるためのカリキュラムは全て教え終わった。つまり、これからは自分で自分を磨き、『真の勇者』となるべく魔王がまだ現存している世界に行ってもらう。本来はペアじゃが、今回は特例として三人になった」
そして、オレが質問する前の言葉をもう一度口にしてくれた。
しかし、先ほどの質問に対しての理由が欲しいのだが、校長はその質問に答えようとはしない。いや、答えたくないような理由があるのか答える様子も雰囲気からも感じ取ることは出来なかった。
そして、オレの左側に居る三人目のロベルト・カルバードがゆっくりと手を上げる。それを質問したいという意味。
しかし、さすがに校長という存在に質問することが恐れ多いのか、短髪の赤髪がプルプルと震えていた。
「なんじゃね、ロベルトくん」
校長はそんな震えるロベルトを心配する様子を見せず、先ほどとまったく同じ雰囲気のまま質問することへの許可を出す。
けれど、オレは知っている。
自分に都合が悪いことは絶対に答えないつもりだな、と……。
が、そんなことを言えるはずもなく、オレはロベルトの質問に耳を傾ける。
「この異世界に行くことは卒業試験というのは聞いたりして分かっていました。そして、『三人で行かなければならない』ということも分かりました。けれど、なんで落ちこぼれのボクや優等生のルクスくん……カイルくんなんですか?」
…………。
申し訳なさそうにこちらを見るロベルト。
そして、反対側ではプッと軽く吹き出すルクス。
分かってたよ。
ちゃんと分かってるよッ!
ロベルトみたいに落ちこぼれでも、ルクスみたいに優等生でもなく、完全に中間順位にいることぐらい! だから、頭に良くも悪くも何もつかなかったのはさ! けれど、せめてなんかつけろよッ!
そんな思いを込めて、ロベルトを見ると慌ててオレから顔を逸らす。
そして、今度はルクスに注意の意味を込めて見ると、こちらは「お前が悪いんだろ?」と言わんばかりの横目でオレを見つめ返してきた。
オレが悪くないとは分かりつつも、オレはその視線に耐えることが出来ず、逆にオレが視線を逸らしてしまう状況に陥る。すると、右耳にまた「フンッ」とバカにするような鼻で笑う声が聞こえた。が、今度はそれを聞き流すことにした。
また負けてしまうから……。
校長はゆっくりと立ち上がると、
「簡単に言えば、バランスじゃ。我が校の異世界に行く時の風習は知っておるかのう?」
机にもたれさせるように置いてあった愛用の杖を手に持ち、歩き出す。
「知ってますよ。成績上位組と下位組で組ませるということですよね」
ルクスが誰よりも早くその質問に答える。
もちろん、それはオレたちも知っていた。というより当たり前すぎるため、この学校に通っている者であれば、いつか知ることだからだ。
「そうじゃ。『真の勇者』になるのは成績上位組だけとは限らん。下位組がそうなる場合もある。お互いが切磋琢磨をし、どれだけ自分を成長させることが出来るかじゃ。まぁ、今回の場合は、中間であるカイルくんを無理矢理このメンバーに入れたということは分かると思うが、こちらにもそれだけの都合がある。それだけ理解しておいてくれれば大丈夫じゃ」
やっぱりオレがその立場かよ! 分かってたけどさ!
申し訳なさそうに言う校長だったが、オレはそう突っ込まざるを得なかった。いや、理解わかっていた分、その予想出来た答えを否定して欲しかったのだ。
そして、オレの左右に居る二人を横目で確認すると、やっぱり口元は笑っていた。ルクスはバカにしたような表情、ロベルトは申し訳なさそうに。
そんな二人を戒めるかのように、校長は「コホン」と喉を鳴らしながら、俺たちの三人の前に立つ。そして、杖を水平に構えながら
「説明も終わったし、そろそろ行ってもらうかのう。校長の長話ほど嫌なものはないじゃろうし」
直後、爆弾発言を校長は落とす。
オレの思考はそこで完全にフリーズ。
きっとルイスもロベルトも同じようにフリーズしているに違いなかった。
なぜなら、
校長の雰囲気からは今すぐ――いや、もう遅かった。
いつも以上に低い声と小声で、オレでは理解出来ない呪文を唱え始めていたから。
それに答えるようにオレたち三人を包み込むように球体が出来上がる。
そこでロベルトがハッとしたように、
「ちょっと待ってくださ――」
と、慌てて声をかけるも、
「それでは頑張るんじゃぞー」
制止も最期の一言も言わせてもらえず、俺たちは眩まばゆいに光によって目を閉じる羽目になった。
同時に本格的に異世界での冒険が始まったことを理解する。
期待もワクワクも希望に満ちたものが一つもない、不安と絶望しかない冒険が――。
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