駄々こねブギー

みんなもともと生死

第1話

 サラダ油でぬらぬらの顔を拭きもせず、俺は憤怒していた。それもこれも恋人の岩田磨味子に毎月もらっている小遣いの催促をしたところ、無下に断られ、俺が大切にしていた天体望遠鏡に納豆をかけてねとねとにし、チワワ並みの非力なぽかぽかパンチを俺の脇腹に浴びせた。まだこの時点では余裕を保ち、糸を引くそのレンズを覗き込めば納豆菌が見えそうな天体望遠鏡を磨味子に舐めさせることで勘弁してやろうと思っていた。しかし、磨味子が泣きながら左手に持ったサラダ油の容器を振り回し、そのぬるぬるを俺にぶっかけて油まみれにした上にアパートの外へ追い出されると、もう駄目だった。俺は弾け飛んだ。柴犬を引き連れたシヴァ神になって、熱湯の入ったカップラーメンを投げつけたくなった。

 公園の公衆トイレの水道で汚れた顔を洗い、水を吸って破けるトイレットペーパーに苦戦しつつも、半ぬらぬらの顔を拭き、服に残る不快な感触に顔を顰めつつも、コンビニへ行き、復讐の武器を買った。商品名は「4545 Miso」で、小惑星を意識でもしているのだろうか? と俺は変な名前に笑った。熱湯を注ぎながら、治まりかけていた怒りが再沸騰する。そして、磨味子にサラダ油をかけられる原因になった女のことを考えていた。

 先週か先々週の木曜日か金曜日か、いつだったか忘れたが、もすりんというあだ名の女と暗黒舞踊の公演の客席で知り合い、巨乳で黒髪の容貌に惹かれ、エキセントリックな趣味にも魅入った。

 昨日、三度目のデートだった。彼女の部屋の照明は紫色で、床はチェスの盤面みたいな白黒。そこに人間と見紛うほど精巧なダッチワイフが五体並んでいた。彼女らは着物を着て、指をくわえたり、はだけた衿の間に手を入れ胸を揉んだりして、扇情的なポーズをとっている。その周囲を雪洞が囲み、まるで大人のひな祭りだった。もすりんは人形の中から銀髪のポニーテールの子を選び、「ホルミウム」と呼びながら愛撫し始めた。拵え物のアソコを丹念に揉み、時折ぺろり舐めている。タップダンスを踏みながら、ホルミウムの唇に接吻したり、自分の乳首を押し付けている。俺の中で本能がめくれ上がっていった。

 ピロートークで鳥と牛の遺伝子を掛け合わせて空飛ぶ牛を作ったり、世界に溢れる全ての音がしゃっくりに変わったりしたら面白いよねなんてバカな話をしていた。帰り際、もすりんは身につけていた黒の土星パンティをくれた。俺は大喜びして、戦利品に頬ずりし、ジーンズの左ポケットにしまい込んだ。

 そして居候している磨味子のアパートへ帰り、右ポケットの財布を開き、軍資金を確認しようとしたら、おっちょこちょいな真似をしてしまった。それにしても自分は抜け作な、スカタンな人間でそのために咎められ、お仕置き、ああ、違った、お叱りを受けることも多々あったが、例え浮気が発覚しようと、陽気に生きていきたいものだ。左右を間違えることなど、可愛く些細なミスである。しかし、状況が悪かった。あかんかった。俺がサイフと間違え、パンティを取り出し、それを見た磨味子は瞬時にシヴァ神に変化し、土星パンティをひったくるとびりびり破いてしまった。惑星の断裂。

 もし彼女が怪力の持ち主だったら、俺を二分割しているかもしれない。

 もし彼女がタイムマシンを所有していたら、戦国時代辺りに送っているかもしれない。 パンティびりびりの後に、冒頭の騒ぎを経て、俺は強く思う。博愛精神に乗っ取った行動だったのだと。いや、強欲で貞操観念が崩壊しているんだろうな。でもね、一人でも多くの女といちゃいちゃちちくりあいたかったんだな。煩悩だらけの、色欲と女体の研究心が合わさり、ついうっかり二股をかけてしまったけれど、あの野郎。よくも、俺をぬるぬるにしやがって。

 アパートに着く頃にはカップラーメンはすっかり冷めてしまったが、俺はまだホット。階段を猛ダッシュで登り、はあはあ肩で息をしながら、磨味子の部屋に着いたドアホな俺はドアホンを鳴らす。なかなか出てこない。何度もドアホンを鳴らして、ようやく出てきた磨味子はチッと舌打ちをして、溜息を吐き、「何なの、それ?」とカップラーメンを指差して言った。俺はぶっきらぼうに「ラーメンだよ」と答えた瞬間、右頬に強い衝撃が走った。俺は怒り狂いながら、口を開いた。

「痛えな、何しやがる」

「あなたこそ、ひどいわ。非道という言葉は道に非ず、道を踏み外して逸脱するからよ」

 どこか紋切り型な台詞を吐く磨味子がチープで陳腐な女に見えて、うんざりする。この女は王道を好み、予定調和に満足してきた。いつだって、そうだった。月並みだった。愛や希望を語れば、うんうん頷き、夢見がちな目ですり寄ってくるのに、「人間と惑星の寿命が入れ替わったらどうかな? 下手したらすぐにスーパーノヴァだね」と冗談を言っても、愚鈍な磨味子は「はあ」としか答えず、スウィングの無いジャズのよう。

 よし、ビンタのお返しにこれでもくらえとカップラーメンのフタを取り去り、磨味子へかけた。行け、「4545 Miso」よ。せせこましい容器から解放されたラーメンはそれぞれ独立し、一つまみの麺が肩に乗り、コーンが髪や服に貼りついた。磨味子はうつむいて、泣きじゃくっていたが、やがてとろんとした目つきで俺を見て、「ねえ、激しくまぐわいたい」と言うなり、しなだれかかってきた。ああ、やめてくれ。君といたらジルバを踊りたい気分にはなれずに、厭世的になってしまうから。バジルを鼻にたらふく詰め込まれたような息苦しさを感じるから。磨味子の身体を引き離し、淫蕩な街を駆けた。


 くるくる回れ、輪廻の花びら大回転。もうっ、どうしよう。あたしったら、快感とさ、色欲で制御された世界を無限に浮遊してるみたいなの。

 ふふっ、もし男女のアソコの形が真逆だったら、生殖は成立するのかしら?

 もしかすると、数千年後の家の鍵が持ち主の男根やら女陰で施錠開錠する仕組みになるんじゃない?

 性別が幾通りに分かれたら、面白いわ。男と女の二つに分かれるけど、気質や肌の色のように分かれないのはなぜなの? 半陰陽やふたなり、有袋類のように育児嚢を持っていたりする人間を見たいの、あたし。

 男はびゅるびゅる精液を放出して、女はどっぷり受け止めて受胎するけれど、進化の過程で新しい性が出現して、無性生殖をする能力を持っていたらどうする? 最初にこの地球上に現れた人類がしばらく無性生殖によって、ぼんぼん殖えて、暇つぶしにセックスして有性生殖にシフトチェンジしたのかもしれない。例えるなら、オナニーをしすぎた少年が十八歳になるや否や、風俗通いにハマるようなものよ。あたしもさー、初めて男を知った時は痛さのあまり、百八体に分裂して、四十六億年のコールドスリープから覚めたような衝撃だった。

 惑星を買い取って、そこであなたと暮らして、子孫を残して、近親同士で契り合う彼らがあたし達の遺伝子を数百倍、数千倍に広げていく様を眺めたい。霊魂か、あるいは丈夫な素体に意識を移し変え、半永久的な命を手に入れた上で。あなたが好きだし、タイムマシンがあるなら、各時代のあなたを連れてきて、標本にするのもいいわね。

 時々、妖精が私に囁くの。動物の種類と同じ数の性的世界が存在していて、卑猥な文章を見せ合いながら、喘ぎ声や湿った腰使いの音を聞きながら、栗の花の匂いのような、魚臭いような、チーズ臭いような独特の匂いを嗅ぎながら、固く屹立したエッフェル塔のソレや熱こもる糸の貝を眺めながら、って、妖精が言うにはそれらの行動から一つ行うだけで一生分の絶頂を味わうことができるらしいの。直接、行為に及ばずとも可能なのよ。でも、一度にそんな快感が襲ってきたら、発狂したり、ショック死したりしそうよね。

 それでもね、リスクを犯して、壮大な絶頂を味わう価値はあると思うけど。例え、お陀仏になっちゃっても。


 全世界の人間の性格が一つに固定されるように操作され、誰もが反社会的な性格に染まったら、それは果たして反社会的と呼べるのであろうか。

 薬だったり、ハッパで簡単にラリってしまう人間たちだけれど、必ず摂らなければならない食品。といって、毒キノコは果たして食品に入るのか、これも疑問だが、普段食べるご飯やクレソン……と言い出しておかしみを感じさせてしまうのは、クレソンなる、大根や人参に比べればマイナー極まりない野菜を普段食べている人が日本の何パーセントか、それは然るべき調査団を雇い、調べさせねば不明なことだが、まず限りなく少ないのは確かだ。

 話を戻して、俺が言いたかったのは、もし食品全てが麻薬として作用するように変化したらどうなるのか。驚天動地だ。この場合、ショク中と称して速やかに逮捕するのか、もはや致し方ない、みんなでラリろうと開き直り、幻覚・幻聴に酔いしれるのだろうか、俺たちは。

 高校の時に偏田執太という男がいて、やたらと一つの道具にこだわる人物であった。彼が名前の通り、偏執狂気味に熱中していたものは信楽焼だったが、あるところに大黒に拘った男がいたとしよう。名前も小黒恵寿で、和骨董屋から木彫りの大黒を三体購入してくると、鍋を取り出した。彼はおろし金を用意し、俎板に大黒を乗せ、二時間かけて大黒を木屑になるまで削り、それを味噌汁に入れた。あたかもかつおぶしを入れるような感覚で。小黒は決して七福神を憎悪しているのではなく、むしろ福を授ける豊穣の神である大黒に憧憬し、一体化を望み、偶像を食す行為に出たのである。美味しそうに大黒味噌汁をごくごく飲み、幸せそうに布団で眠った。

 小黒恵寿は起きると、残っている二体の大黒を右腕で胸に抱え込み、左手で怒張する性器を握った。小黒はホモだった。抱えていた大黒のうち、目を閉じているものはむつる、にこやかな顔の方をへらおと呼んでいたのだが、柔らかく波線を描くへらおの口元にキスし、帽子を被った頭を撫でつつ、愛しそうな目。小黒は息苦しく悶えながら、むつるを掴み、そっぽを向かせる。そうすることで、むつるが二人の行為に嫉妬し、愛撫を羨望しているのだと妄想するのが彼の楽しみであった。果てた。

 小黒はCDを集めていた。それらには「ミクロ大黒」「リバプールに大黒ダンス」「ポルカ大黒ワルツ」「氷壁の大黒の裏腹な笑顔、イ短調の冷気が滞る先」「ああ剣呑たる大黒」「私とダイコクして」といった曲名が記されていた。

 あろうことか、小黒は不慮の事故や病気で亡くなった場合に備え、大黒に遺言書を残していた。ここまで来ると彼の大黒に対する異常な執着は狂気に満ちていた。

 和骨董屋にて、小黒は苛立たしげそうに何度も溜息をし、一週間前まで売れ残っていた片足を浮かせた陶器の大黒のいた空白を見つめていた。その時、愛染明王が遊女を愛撫する春画を眺めていた五十過ぎの男が声をかけてきた。

「大黒が心底好きなんだねえ、君は」と男が小黒の大黒愛を見抜いたのは当然で、まことにわかりやすい格好をしていたからである。全身を大黒に統一し、リュックサックにつけたキーホルダーも大黒ならば、そのリュックサック自体が大黒の形に絵もプリントされているという徹底ぶりであったから。にやにや笑う男の話を聞くとこうであった。自分は大黒と意思疎通をできる機械を作れる。だけども、大変高価な機械で、デザインはイタリアの現代美術の巨匠ポリロツィツォーニ、年に十台しか生産しない希少なものらしい。玉虫色と灰汁色のストライプが印象的。本来の値段は一京二十兆五億三千四百万円と天文的な価格だが、今なら四百万円で売るという。小黒は二つ返事で買った。

 三週間経ち、タール色の機械が届いたが、壊れかけの中古のワープロであった。小黒は天窓に映る阿呆みたいな雲が流れていくのを呆然と見ていた。

 空気に大黒が溶け、蛍光灯からは白く発光する光線状の大黒が視界を照らす。世界では大黒伐採が起き、地面には爆発する大黒が無数に埋められている。万物に大黒を当てはめようとした小黒は、ついには自分が大黒になってしまった。でも、顔と身体は赤と茶色のマーブル模様に塗られて珍妙かつちんちくりんだし、小槌の代わりにピコピコハンマーだし、俵は伯父のボロボロのお下がりだしね、まいったね。


 ベランダに出て、俺は物干し竿の上を歩く大黒の妖精を見ている。

 十分前、別のカップラーメンを食したところ、本当にショク中。

 突如、ガラスの洋城などというメルヘンチックな幻覚が見え、眼前のそれは学生机ほどの大きさで、俺はそれに触れようとしたが無理であった。洋城が消えると、妖精が現れ、最初は可愛らしい少女のようであったが、家の中をビュンビュン飛び、ベランダに着いた頃にはおっさん顔になっていた。妖精は物干し竿を鉄棒に見立てて、ムーンサルトの動作をして、それから大車輪に切り替え、ぐるんぐるん回り出した。あっ、と野太い声をあげて、次の瞬間妖精はコンクリートの床に落ち、ぱりんと音を立て割れた。すると、そこから小豆色の煙が立ち昇り、俺は吸い込んでしまった。モノクロ、セピア、モザイクと景色が変化し、ずぶずぶめり込んでいく感触を味わっていた。うわわわ、床が沼になって足を飲み込む。沈み込む。

 そこに緑色の髪を垂らしたおばはんがやってきたので、俺は助けを求めた。が、へらへら嘲笑うばかりでおばはんは俺の頭や肩を小突く。ぬうっ、と低い呻き声をあげ、不満とむかつきを表すが、尚もおばはんは俺の頬を引っ張ったり、両の人差し指でこめかみをぐりぐりしてきたりする悪ふざけをやめない。やめろ、血圧が上昇する。世界が湾曲する。怒りで自己が崩壊する。

 気がつくと、もすりんが倒れていた。彼女を抱きかかえ、顔を覗き込んだ。顔が腫れた無残な状態だった。「どうしたんだ、おい」と声をかけると、もすりんは恐怖の表情を浮かべた。まるで栄養失調の女がテーブルの脚に縄で縛られていて、数百本の麺つゆのペットボトルから流れる麺つゆの海に溺死しかけているような恐怖。

 もすりんは痙攣しつつ、「ちゅろりんふ、がに股のガニメデ。オベロンのおでんオペ」と意味不明な言葉を口走り、ブリッジの姿勢をとった。俺は橋の頂上を手で押し、姿勢を崩させると、その弾みで頭を打ち、しばらく「液体状にしたはんぺんを膵臓に投与よ」「肺臓に辛子大さじ二で」などと言っていたが、我に返り、正面に向けていた顔をうつむかせ、「何で殴ったの?」と涙声で言った。ホワーイ? 困ったな、俺がカップラーメンをかける男だとしても、何の理由もなく女性を打擲したりはせぬ。しません、断じて。まあ、でも否定をしてはいけないというか、前後不覚だった先頃にもすりんを殴打していない自信は無いので、便宜上認めた。「本当にすまない。もう僕は君にギロチン刑に処されても文句は言えない。でもね、君の乳房が摩滅してしまうほど愛撫したいくらいに、僕は君を愛してる」と最初は落胆した声で、途中からオーバーな大根役者の演技じみた手ぶりを交え力強く言った。内心、気恥ずかしく、いたたまれない気持ちになって、頭の中に銃を暴発させた鱈の手品師が浮かんで消えた。んぐぬむ、と奇怪な泣き声を発し、はらはらと涙を零しながら、もすりんは黙ってキスをしてきた。俺、なぜだか虚無的な心境になって。


 余はドブニウムという元素であった。ボロアパートの三畳半。といった具合に質素で謙虚な世界を造り上げたのだが、あの匪賊どもがガムを、くっちゃくっちゃ、と噛み、殺風景の空白だった大地に吐き捨て、足で踏みにじって拡げてできたのが強欲に肥大したこの世界である。余は、「三畳半で充分だったのに、無駄に広くしおって」と憤慨し、表面上はもてなす振りをして匪賊どもを招待し、毒薬のワインを召し上がっていただいて、くたばってもらおうという作戦を立てた。しかし、匪賊様はワインを一飲みして、すぐに不味そうに庭へ吐き、そこからヒトデナシが生まれた。

 呆祁崎駅と書かれた人糞と反吐で汚れた看板を見て、余はふるふる震えていた。心の余震。ああ、もうアカン。駅の数に対応して、惑星が存在している。本当は余は一つ前の仔邑駅もとい仔邑星に降りたかったのである。けれども、座席に座り『駄法螺デボラ』というタイトルなのだが、登場人物にデボラなる人物は存在せず、さらには堅実な内容の会話を交わすばかりで刺激がない小説を読んでいたら、降りそびれた。

 主人公の青年は酒も煙草も嗜まず、当たり障りのない行動しかしない。退屈を堪え、なんとか斜め読み気味に読み進めると、珈琲豆が切れ、同棲する恋人に買いにいくよう、主人公が命じたところ、唐突に恋人は喋りも読みもできないラテン語を話し始め、人力車に乗ってどこかへ失踪してしまうといった展開になった途端、面白く感じ読みふけるうちに余は目的の駅を通過してしまった。

 仔邑星は治安が良く、空気は清浄で、寿命が二百年くらい延びるような気分になるのだけど、呆祁崎星は治安が悪く、人々は呪詛を唱えつつ歩いていて、腐敗したヨーグルトの如く液体が往来のあちこちにばら撒かれ、悪臭を放っている低級な惑星なのである。

 発狂しそうな街角で、ヒトデナシの有象無象から目をそらし、ソラシの旋律に戦慄しつつ、駐車場に大量に並べられた、雑巾を絞った汁のような色の三角コーンを眺めていた。振り返って有象無象を睥睨すると、野獣同然の野蛮な男やスーパーで買った食品全てが腐敗していてがっかりしているといった風情の中年女性、休日は浪曲の定席に通うのが趣味といったサラリーマンがこぞって余を誹謗している。そんな疑念が頭に湧いた。同時に不吉な想像がよぎった。

 野蛮な男に脅され、金銭を巻き上げられる、中年女性からは説教され、しなびたキャベツやどろどろに溶けたトマトを投げつけられる、明らかに自分よりも年下の男には仕事をサボリがちな会社の同僚と間違われ、叱責されるなどといった理不尽かつ不条理な災難に見舞われる予感がした。

 さらに道端の電話ボックスの代わりに押入れがあって、その部分だけ空間が転移している。うおーっ、と叫び声のあとに、押入れの戸を突き破って、中から青い肌の男が出てきて、余を羽交い絞めにし、男の全身から注射針のようなものが突き出てきて、覆いかぶさるようにグッと刺さり、余の血液をナンプラーに入れ替えてしまう。るらら。体中をどろりとした、得体の知れないものに汚濁される感覚を味わいながら、呆けた街を彷徨。

 ベンチに腰かけ、単色化した世界に思いを巡らし、ふと公園の入口に目をやると、顔を真っ赤に塗り、女面を着けたバニーガールが立っているではないか。彼女はうさぎ跳びで余の元まで来て、胸元に入れていた御所人形を眼前に差し出した。心ここにあらずといった、惚けた表情を見つめていると、人形のうっとりした目を隠すように渦巻きが発生し、両目に貼りついたそれは余の視界を渦巻かせた。意識が円状に途切れ、失神。

 回復した余は真紅の沼に浮かんでいた。悪臭に神経を乱されながら、二百メートルほど泳ぎ、辺りを確認する。地平線まで赤で統一され、地面と沼の区別がつかない。ドブに設置されている蓋が連なり、直線状に展開されていた。赤に単色化されたドブの世界に元ドブニウムであった余は呼ばれてしまったのかなと無理に納得をしようとした、その時、ドブの底から引力が働いて、あっけなく余は沈降していった。

 そして今日まで、永遠に汚泥を吐き続けているのである。


 サイコロの一が出たら、河原で遺影撒きが今日のデートコース。二が出たら、落語。三は乗馬でよかばい。四ならば美術館。五だったら遊園地。六であれば手品師兵村猫一の全客席猫配置マジックを見に行く。

 まず、一が出た場合に行う、遺影撒きというのは俺ともっすんのそれぞれの遺影を五十枚ずつ作り、額縁に飾ったそれを、橋の手すりの上や河川敷の芝生や道路に設置して、遺影の発見者が面妖な表情を浮かべたり、気色悪いと露骨に口にしたりする姿を、俺らは遠目から覗いて楽しむ。我ながら悪趣味な遊びを考えたものだ。

 さてと、六が出た場合の兵村猫一の手品は、彼が保健所からもらって育てている数百匹の猫から来場客の数に合わせて設置していく。合図とともに、無毛種で肉がしわしわにたるんで見えるスフィンクスやふわふわしたソマリ、エキゾチックを始めとするあらゆる猫が瞬時に配置され、観客はまばたきをする間もなく膝に乗った猫を見て、兵村の神業にエキゾチックに沸く。そして兵村の狙いというのは観客の良心を試すことであった。舞台上から姿を消したまま、二度と戻ってこない兵村。観客は慌てどよめくが、どんなに待っても戻ってはこない手品師にやがて諦める。

 この時、猫を会場に置き去りにしていくか、あるいは猫を自宅に連れ帰って飼育していくのかを兵村は委ねるのである。

 しかし、当然ながら猫をマジックの道具に利用し、無責任にも観客たちに猫を押し付けて勝手に帰ってしまう兵村には批判が殺到した。雑誌のインタビューでそのことに触れられた彼はこう言い放った。

「僕はあなたがたに捨て猫を与える。そうすることで猫を捨てる人を、何と言うかな、風刺しているというか、当て付けというの? それでねー、最初に猫を捨てた奴等に思い知らせたかった。そしてあなたがたが猫を放置するのか愛育するのかどちらの選択をするのか興味深かったんだ、あははは」

 俺はこの兵村から自分と同じような匂いを嗅ぎ取り、人を舐めた態度を取っているようで、無関心を決め込む人間たちを無理矢理引きずり込んでしまう姿勢を面白がっていた。 兵村はどうしようもないくらい動物が好きで、殺処分される命を減らそうと、傍から見れば無茶苦茶な行動をして、強制的に猫を拾わせているのかもしれない。

 一方で、実は動物に無頓着で泣こうが喚こうが死のうが関係ないと思えるからこそ、拾った猫たちを手品で失っても平気なのかもしれない。

 結局サイコロを振って五が出たから、遊園地へゴー。久慈ロウランドと呼ばれるここは奇抜でへんてこな、遊園地と呼べるかも怪しいところだ。なにせ、乗り物は観覧車があるのみで、他は餅や壺や饅頭などを模った建物がUの字に展開されているのだけど、通常の遊園地におけるイメージをことごとくぶち壊しているんだから。レストランは一店舗もなく、なぜか本屋と金物屋が存在している。全く奇妙なり。

 手始めに餅の形した建物へ入る。中央にオセロが二台ぽつんと置かれていて、右隅に浴衣を着たおっさんが地べたに座り込み、茶碗を右手に持ち、何か飲んでいる。俺ともすりんは、変なおっさんだ、うん、そうね、怖いわね、と呟きあいながら、野次馬根性を発揮して近寄り、話しかけた。

「あなたはここで何をしてはるんよ?」

「ん? 僕は茶人だからね。でも時には珈琲だって飲むんだよ。ダージリンティーだって飲むさね」

 そう言っておっさんは茶碗に入れた珈琲を時折茶筅でかき混ぜながら飲んでいる。

「ねえ、何でここにはオセロしかないの?」

「さあね、それは僕にもわからんのう。それより、ちょっと僕を見ていてくれよ」

 目の前のおっさんが浴衣を脱ぎ、貧相な身体を晒す。そして浴衣を裏返しにして、それを着たのだが、ワイシャツになっている。俺は素直に驚きを伝えた。

「これはたまげた。どういう仕組みになってるんだ」

「常識を打ち破るのがわしのポリシーじゃけん。浴槽を米で満たしてもええじゃないか。地球を酒瓶と考えてもええじゃないか」

 おっさんは、前半を広島弁で言って、俺の質問には答えず、妙なことを言った。

「訳の分からぬおっさんだ、行こう」

 もっすんの手を引いて、建物から出ようとする俺らの背中におっさんの声が聞こえる。

「僕は駄々羅ダダ夫、今から地団駄踏みまーす」かなんか言っているけど、当然構わない。

 さっきのおっさんの影響で、あの壺のような建物の上に壺の穴が飾りとして作られていて、その穴には眼鏡ケースやヌンチャク、味噌が置いてあるといったシュールな想像をしてしまった。俺ら、しゅるしゅると壺の中へ。

 ばきんばきん、と何かを破壊する音が聞こえ、何事かと視線をくるくるさせると、少年が逆立てた髪を前後に勢い良く振りながら、左手に持ったハンマーでくるくる回る独楽を壊していた。

「流行は回り続ける、音楽も小説も映画も漫画も既存の概念をぐるぐるぐるぐる行ったり来たりだ。表面上の薄い世界を抜き取っただけの作品が生産されるサイクルが繰り返され続け、紋切り型のメリーゴーランドだね。だから、おいらはこの偏屈胡麻をふりかけながら、独楽を壊すのさ。そうすると、あら不思議。日本中に偏屈な人間がどっと増え、新機軸を打ち出す者ばかりになる」

 と少年は偉そうに嘆いて、床に置いてある新しい独楽を取って、ズボンの右ポケットをゴソゴソやると、そこから七色に塗られた胡麻を出して万遍なくふりかけて、右手で独楽を押さえ、力いっぱいハンマーを振り下ろし叩き始めた。

 だが、時折押さえている手をハンマーで叩いてしまい、少年の手、赤黒きハムの如し。もすりんは心配しておろおろと動き回っている。その様はおろおろの舞とでも呼ぶのがふさわしいか。おろおろの舞を舞いながら、そろそろと少年の方へ近づいていくもすりん。すると少年は作業をやめ、もすりんに七色の胡麻をふりかけ始めた。そして俺に向かって手招きをするので少年に近づいていくと、やはり胡麻をぱらぱらかけて、フランス語のような言葉を呟いている。俺はムッシュポテトと心の中で叫びつつ、「ぼそぼそと何を語っているのだい」と聞くと、少年は、「フランス語の響きを意識して、でたらめに並び立てているだけだ」と答えた。そう言われると確かに少年のエセフランス語は滅茶苦茶だった。「セ・コマ・ムワ・フェンデュ・ゴマ」などと言ってふざけている。

 急に真顔になって少年はフランス語をやめ、悲哀な声で言った。

「おいらは愚か者だ。フランス語を見事に覚え、フランス語による詩吟を披露して、ポニーテールの似合うパリジェンヌとアン・ドゥ・トロワでくっつきたかったのに、愚鈍な脳だから頓挫した。んだども、君たちにパリジェンヌをどうにか連れて来てもらおう」

 己の妄想世界をひた走り、願望を羅列する少年に俺は戸惑いながら、「君の頭の配線が廃線してきてる気がするけど、大丈夫かね」と問うと、少年は「君たちの分で、偏屈胡麻は無くなっちゃったけど別にいいんだ。おいらなんてそれを振りかけても何一つ変わらない、文句を垂れるだけの能無しだから」などと自嘲しはじめ、暗い暗い。さらに少年は今はそっとしておいてくれと言って、俺らを追い出したのだった。いちいち慰めて元気づけるのも面倒臭く、やっていられない気持ちになるので、そのまま次の所へ向かった。

 乳白色の首輪の形をした建物へ入った。そこは劇場並みに広い空間だった。そして、さっきまでの建物は犬小屋のように狭かったなあと思った。真っ赤な照明が溢れる中で、大勢の人間が一人の女を包囲していて、横に立っているもすりんが淫靡な出来事を期待して唾をゴクリと鳴らすのを意識した。

 女は首から看板をぶら下げていて、目を凝らして見ると、「どんないちゃもんでもつけてください」と書かれていて、俺は、あー、なんだ、エロ関係じゃないのかとがっかりしつつも、女が観衆に詰られる様を見てやろうと思いながら待ちわびた。

 最初に女が観衆の中から長髪のおっさんを選び、「どうぞ」と声をかけた。おっさんは、前世自分は錫杖であったが、破戒僧だった女に真っ二つに折られたというようなことを怒鳴り散らした。女は恰も申し訳なさそうに俯き、「……うう……本当にごめんなさい。できることならあなたの鞘に……フードカバーに……繭に……瞼になりたい」と感情を殺した声で一音一音を確かめるように言った。おっさんは不満そうにぶつぶつ呟いていたが、出口まで歩いていき、そのまま去った。結局、女の説得は失敗したようだ。

 ただ、俺はこの何ともいえない奇妙な見世物? 寸劇なのか、人生相談なのか、よくわからないが、極めて面白く感じたので見続けることにした。

 次に指名されたのは朱塗りの兜を被り、右手に孫の手、左手に猫の石鹸を持った老婆であった。照明のせいで赤く見えているだけなのかもしれない。

「けっ、あんたはミルフィーユにモルヒネをたらふく盛って、私に食わせたね。モルフィーユってかい? でもコニャック飲んでネロリのお香焚いたらピンピンになったがね」

「そう? なぜ治っちゃったの? なぜなの?」

「何よ、あんた。私がくたばれたいいってのかい?」

「いいえ、ただ……」と女が二の句を継ごうとすると、老婆が「ただ? 何なのよ!」といきり立つ。燃え立つ。殺気立つ。

 女は、飼っていたマンタをある日ゲイラカイトに掏り替えられてしまったといったような悲しげな表情をして、嗚咽を漏らし、目から滂沱たる涙を流して、泣き止むと言った。

「痛みが発生する前に事前にですね、モルヒネを服用することで、お婆さまの痛みを予防したかった。うん、苦しい思いをさせたくなかったの。私が暗愚で迂愚で狂愚だから量を間違えるなどという致命的であんぽんたんな粗相をしちゃいました。ごめん。違った、申し訳ありませぬ」

「ところどころおかしいわねえ。語尾がねえ。妙な言い方だねえ。それで馬鹿な小娘を装っているのねえ。でも私は騙されないのねえ」

 老婆は女を鋭い眼光で睨み付ける。女は老婆を真っ直ぐ見据えている。

「私は一億年前からお婆さまの胸に抱かれたいと思っておりました。会話の冒頭に何度も治ったのはなぜなのかと連呼したのは私の心のねじけからです」

 疑わしげに「本当かねえ?」と言う老婆に女はうるうるの目で「私はお婆さまを深愛しています」と答えた。その途端に老婆は女を激しくハグ。今までの敵対的な態度と打って変わって、親情的な様子になった。

 三人目に選ばれたのは雨合羽にボクシンググローブという、あまりに奇抜な格好をした少女であった。明らかに少女は発狂しているようだった。なぜかというと、女に呼ばれても、そっぽを向いて、客席にいる易者や医者や芸者、指揮者などを焦点の定まらない目で眺めているからだ。困り果てた女が挨拶をし、反応をうかがっていると、少女は先の二人よりも格段に意味不明かつ支離滅裂なことを言った。

「翠団、康強な岳父。星型の筒から螺紋見たり。蔦猫、鎌犬と砂糖でパンク。大月くんちの浴室のシャワーヘッドの神様がハンモックをゼラチンで包む。狸の尾を踏む音と巫女を絞る音でね、二重奏。ねえ、あいつら、餓える子供に神経衰弱教えてるどころじゃないよ。言葉狩り激しくなったら、トランプの神経衰弱も代替語で名称変更? ああ、濾過して。私は人形だったのに、笹かまになりたくないのに。ファの音ってね、松前漬の味なの」

「人間は憤怒によってできているのです。あなたが自己欺瞞から抜け出す時、嬰ト短調のオルゴールが鳴る。すると、暴徒がなめこともち米を投げつけ合いながら、ウニと栗を武器にして戦い始めます。うああああいっ! 膵臓を抉り出すと改名できます。桃に陰毛を描くと改姓できます。不条理を詠った都都逸を百首作ると、いやはやすごいですねえ。すごいことになるんですよぉ。種族を変更できてしまうんです。例えば私は赤鬼になると申請すると、角をつけて、ファイアーレッドの肌にしてくれちゃうんです、無料で。ただ、鯨やキリンともなると、どこまで姿形や性能を近づけられるか不透明ですけどね。汚辱の刑は愉快だ。人々が汚辱を感じる時、自分の顔が脳裏に浮かぶようにしてしまうんですから。五百億も払って、快感を感じる時、私の美貌が浮かぶようになんてほざいてた五十過ぎの女優がいたけど、インポの男性が激増したしね。えっと、呪詛行脚は……」

 少女に調子を合わせて、彼女は涎を垂らしながら発狂した女を演じていた。ウニと栗で戦う話をした辺りで、服を引き裂くなどして、狂気をなんとか演じようとしていた。しかし、少女がうひうひ笑いながら懐から彫刻刀を出して、女ににじり寄るようにすると、途端に素に戻って女は命乞いし始めた。観衆は少女に味方をして、怯える女を囲み、たこわさじゃと言いながら初老の男が女を素っ裸にし、女の柔らかな鞠から窪みにかけて、千切った蛸と山葵をばら撒いていく。好色そうな顔つきで。くすぐったいのと皮膚がひりひりして痛いのが合併して、悲鳴のような嬌声のような声を発する女を見るうち、むらむらしてきたのだが、おかしな事態になった。まず、黒髪と銀髪のナース服の女がたこわさを互いにかけ合って、ふざけだした。たちまちに連鎖反応が起きて、観衆の誰もが手に持っていたものを投げ始めた。

 カシューナッツ。スライム。褌。ちりめんじゃこ。ドアノブ。牛糞。マウスパッド。単一形乾電池。ねり消し。もやし。位牌。咳止めシロップ。十手。熊のぬいぐるみ。パズルの欠片。

 足元に散らばる、それらの不思議なものを見ていたら、何かが俺ともすりんの目に飛び込んできた。匂いで烏賊の塩辛とわかったが、だから何だ。袖で慌てて拭い、右足の近くに落ちていたドアノブを拾い、闇雲に投げて憂さを晴らしてから、もすりんの手を引いて、イカサマ野郎たちが狂宴を繰り広げる会場から去った。

 ちゃっぷちゃぷ、と湯を掬い、目を洗う。それにしても、本屋の中央に浴槽が置いてあるなんて、滑稽だ。いっそ風呂に飛び込んで、もすりんを引きずり込んでもいいくらいなのだけど、漫画コーナーあたりに大学生らしき男が二人いて、やりづらい。

 入口付近はごく普通の本屋で、ホッとしたのも束の間、浴槽があるんだもの。熊のおもちゃまで浮いている。本が湿気を吸ってしわしわになるかもしれぬリスクを充分承知しながら、浴槽を設置するここの店主は単純に頭が腐っているのか、常識の概念をぶち壊す破天荒なパンク精神の持ち主なのかのどちらかだろう。

 俺は音楽雑誌を、その横でもすりんは官能小説を読んでいたのだが、着物を着た金髪のギャルが俺らの間にいきなり割り込み、大阪弁で話しかけてきた。

「うち、弁天やけど、言葉がな、あまりにもないがしろにされてるんちゃうか。ほいでな、そない、言霊レベル下げるちゅうんやったら、うちにも考えはあるんや」

 弁天と名乗ったけったいな女はもすりんの手から官能小説をひったくると、爪で引っ掻きだした。弁天の身体の周りを桃色の光が覆っていたことから、あながち本物かもしれないと思った。そして弁天はもすりんに本を返し、すたすたと浴槽まで歩いていき、そのまま着衣のまま入ると、あら不思議。ずぶずぶ身体が沈んでいって、弁天は消えてしまったのです。

「何これ? ちょっと見てよ、これ」

 もすりんに促され、俺が官能小説を覗き込むと、紙面は子供が描くような落書きだらけになっている。なんとなく手に持っていた音楽雑誌を開いてみると、本来文字が入るスペースが公衆トイレの落書きで埋められていて、アーティスト写真にもやたらとリアルな吐寫物が随所に描かれていて、名誉毀損で訴えられそうな代物に成り果てていた。

 しらみつぶしに本という本を開いて中身を確認したものの、全てが落書きに変化しており、一冊ごとに恐怖で心拍数が上昇。あらかた本を確かめ、無事な本が一冊もないことを確信した途端に、何だか空恐ろしい感情が胸中に溢れてきて、柄にもなく悲鳴をあげながら、俺ともすりん、帰路を急いだ。


 ねぇ公園ってば、稚拙美。だ、だんどん言葉が壊崩していっているざます。ダダを捏ねるリズム、ブギーだす。懐古主義になれ。解雇はいやん。小生には如何にすれば、譫妄していく言語を正常に治せるか、とんとわからぬ。あやつがバベルの塔を大黒同様にすりおろしてしまったのぽぽぽぽ。雨蛙、マジョラム降る、盆地かな。訴霧県忌墓郡無常村のどこかに一つだけぽつんと嵌め込まれている敷石を十回踏むと日本が滅亡するらしい。でも、踏む回数が五回だと半殺しならぬ半滅びくらいで済むらしい。だが、その前に鮟鱇の全身に千点棒を刺しておかないといけないのだ。その際、鮟鱇にごま塩を振りかけておくと、始祖から断絶するまでの子孫までの血族に、時を越えて、寂れた藁葺き屋根の家で会える。レ、埜ェ5ュ鬼起刺姫。山あい新春蒸籠営々と足りられる。◎に卑猥呪文、宇へ¶槍突貫。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

駄々こねブギー みんなもともと生死 @minamialpen360

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る