第32話 幼馴染は窓から帰る
子供の頃のことだ。他に友達もいない俺のことを気の毒に思ったのか、
たしか小学校の高学年。その頃といえば、ちょっと色気付いてくる年代ではあるものの、そんな
だから、今から思うと、せっかくさそってくれたコモちゃんに、俺はちょっと失礼な感じの対応をしてしまっていたかもしれない。着いてくるなとか。はなれてろとか。それは、嬉しさの裏返しの照れ隠しなとこもあるなと今からなら思えるけれど、俺は道中、随分とえらそうな感じで、言いたい放題になってしまっていたのだった。
でも、そんな俺の失礼な言葉も気にせずに、コモちゃんは俺と一緒に夜店を周り、ずっと楽しそうに笑いかけてくる。すると、そのうちに、俺も思わずニヤニヤとしてしまっていて……
気づくとそれがクラスメイトに見られていたのに気づいて、あわててまた罵倒して見たり——なんか最低だったね俺。
でも、
「うん。今日は楽しかった……また遊ぼうね」
俺の失礼な態度なんてまったく気にせずに最後まで一緒にお祭りを回ってくれたコモちゃんに、
「なんで……」
さらに失礼なことを俺は言うのだった。
「俺なんかに構うの。幼馴染だから?」
「……んん? 幼馴染なら構うかって言われたら……たしかに幼馴染でなかったら君とは仲良くなってなかったもしれないけど……」
俺は、すでにそのころにはクラスに溶け込めずに、あまりみんなから話しかけられることもないが、それならその方が気楽と割り切れるほどに、若くして達観したボッチとなっていたのだった。そんな俺にクラスの人気者の
「なんと言うか、そういうのと違うんだよな。まあ、うまく言えないけど、君は私の幼馴染で、しかもほおっておけない男の子だと言うのは間違いないわけで……」
ちょっと心配そうな顔で、
「ねえ君……今日は迷惑じゃなかった?」
そんなことを言うコモちゃん。
首を横に降る俺。
「そう、それなら良かった。なら、感謝してる?」
ん? そんな風に言われるとちょっとひっかる感もあるが、ここで否定するのも嫌な感じなので首肯する俺。正直、お祭りに行きたいが、一人で行くのは気が引けてた俺を連れ出してくれたことには本気で感謝していたしね。
だから、
「何か欲しいものない?」
「え……?」
普段、断られることが怖くて、こんなことを絶対言い出さない俺の口から漏れたその言葉にびっくりした様子の
「……今日のお礼に好きなもの買って良い」
「うわ。君からそんな事言われると感激するな……ん、でも、今なんでもって言ったよね? 夜店にはゲーム機とかとっても高いのも売ってたよ?」
まあ、それは売ってるんじゃなくてくじで当てるやつだが、でもその時の気分は、なら当たるまでコモちゃんにひいてもらおうとか、子供の資金力も考えずに根拠なく思っていたのだが、
「まあ……私そんなの欲しいんじゃなくて……例えば……」
買ったのは安っぽいプラスチックのペンダント。
そんなものは、その時は嬉しくても、大人になる途中、いつのまにか捨てられてしまうようなものと思っていたが……
*
「まだ持っててくれたんだ」
「持ってた? あ、ペンダントのこと?」
首肯する俺。
「まあ、プラスチックのチェーンは切れちゃったので今は鎖に付け替えてるけど、トップは今の歳でこうやってつけて見ても結構いけると思わない?」
そうかな。ちゃんとした大人の女性になりつつあるコモちゃんはもっとちゃんとしたアクセサリーをつけた方が良いと思うけど。
「でもこのなんともほんわかした雰囲気他じゃ出せないから、今でもたまにつけるんだよね……今日も……久しぶりだったけど……あれもしかして?」
「む!」
「そうですね。幼馴染さんがこの世界に来れたのは、他に知り合いのいない使い魔殿の転移魔法における特異点となったからと言うのもありますが、その
「そのペンダントをつけていたから、使い魔殿の思い出と繋がってここに来た……と言うわけですか」
ロータスがコモちゃんのペンダント見ながら言う。
「へえ、じゃあ、また
「そうかもしれませんが……」
「いや、さすがに異世界堪能したと言うか満腹も満腹でもう食べません状態なので……しばらくはいいかなだけど……」
だけど?
「君が頑張ってるところ——また見に来てもいいかな? だって私は君とは一生腐れ縁だよ……きっとまた来るからね」
と、その言葉を最後に、窓を開けてその先に見えた異空間の中に消えるコモちゃん。異空間——そのまるでCGのような極彩色の光景の中にうっすらと見える日本の街並み。その中で手を降る幼馴染の姿はだんだんと溶けて崩れるように消え……
と、まあ。風のようにやってきて、風のように消えた幼馴染であった。
なんとも、騒がしくも、しかし安心する。家族のような、そうでもないような微妙な関係の友人でもあるような、もっと親密な何か特別な関係ででもあるような?
人付き合いも悪く、人の感情を読むのも下手な俺がこの微妙な関係の機微を理解しているとは言えないのかもしれないけど……
少なくとも、夜店で買ったアクセサリーをプレゼントしたいと思ったあの時の、そのほのかな感情……そんな感情をもたらした世界を捨てたくないと思って……それが今回キメラの中から抜け出す原動力となった……のかもしれないと改めて思う。
ロータスからは、今回俺がキメラの世界滅亡なんていう野望に取り込まれたのは、誰にでもある破滅願望をつかれたので、彼女でも耐えられるかわからない——しょうがない、とは言ってもらったものの、それがあのままではどうしようもない絶体絶命ピンチであったのは確かであって、ならば……
俺は、幼馴染が消えた窓を眺めながら、
「また来てくれるかな?」
いろいろ考えるのがめんどくさくなって、心に浮かんだ一言。自分が今思うそのままの気持ちをただ言葉にするのであった。
異世界で生き残るには? ググれカス! 時野マモ @plus8
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