ギルド職員の受難

鈴代なずな

第1話

■1

 ランク一依頼同行報告書

 依頼内容:隣町へ出かけるお母さんの代わりに子守。

 依頼人:エイミー・ソル

 請負人:ランク一冒険者、アッヌ・フランソワ

 まず、請負人の名前が『アンヌ』ではなく『アッヌ』であることを強く強調するように言われたので、ここに記しておきます。彼女には彼女なりの誇りがあるようです。

 赤ちゃんは生後六ヶ月。身長、体重共に問題なく、至って健康。よく眠り、よく食べるわりに、あんまり駄々をこねないから手がかからないとお母さんに好評です。でも手がかかり過ぎないのも、お母さんのエイミーさんとしてはちょっと残念とかなんとか。

 それでも可愛いことには変わりなく、特に目がくりっとしていて素敵です。口元なんかはエイミーさんにそっくりで、笑い声もとっても可愛かったです。

 でも私が近付くとなぜか赤ちゃんが泣き出すので、遠くからこっそり観察しました。アッヌさんばっかり赤ちゃんと遊べてずるいです。

 いつか私も結婚したら、あんな赤ちゃんがほしいなぁと思いました。

 報告者:ランク一同行員、リコネス・フォークロア


---


「書き直し」

「えぇっ!?」

 半日かけてようやく書き上げた報告書を突き返されて、リコネスはショックに声を上げた。

 冒険者ギルド事務局――リコネスはそこで愕然と、目の前のデスクに座る上司を見つめた。できる女といった雰囲気を発する彼女の瞳に、対照的な自分の姿が映し出されている。

 赤み掛かった大きな目を見開かせ、肩ほどまでの茶色い髪を逆立てんばかりに、果てしないショックを受けている。十四年間を生きてきてこれほどまでにショックを受けたのは、記憶の限りでは先日、先輩職員から「小柄だし細身なんだけど、雰囲気が円形だよね」と言われて以来である。ちなみにその時はダイエットを決意したが、その日のうちに挫折した。

 白のブラウスに栗色のパンツスーツという職員の制服も全く似合っていないと言われたが、それは仕方のないことだろう。

 それでも胸に付けられたギルドの職員証は、どこか誇らしげに揺れていた。

「書き直しって……全部ですか?」

 恐る恐る、リコネスが尋ねる。上司の女――ローザ・エヴァンという名前だったはずだ――は、一度怪訝な顔をしてから目を閉じた。

「依頼人と請負人、あと報告者の欄は許してあげるわ」

「あ、なんだ。それなら――」

 リコネスはパッと顔を明るくして、数秒。虚空に視線を這わせると、泣き顔に変化させた。

「それって結局、報告内容全部じゃないですかー!」

「なんで一瞬でも安心したのよ」

 上司、ローザに半眼を向けられ、リコネスはバツが悪く肩を寄せた。

「で、でも、これが初仕事だったわけですし……」

「仕事が始まれば、一回目も百回目もないのよ」

「うぅぅ。ローザさん、厳しいですよぅ」

 そんな泣き言を聞きながら、ローザがゆっくりと立ち上がる。「一応、私は課長なんだから、相応の呼び方をしてほしいけど」と呟くのはさておき。ますます威圧されて身体を縮こまらせるリコネスに、彼女は頭半分ほどの差で見下ろしながら、声音をさらに厳しくさせた。

「貴女にはもう一度、しっかりと教え直す必要がありそうね」

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